第14話
興奮した馬は止まらない。シア!と叫ぶアルが自分の馬を並走させて追いつこうとする。足が速く、なかなかつかまらない。
何度も私の手綱をとろうとし、失敗する。私は必至に腕が痛くなってきても離さずにいた。少しでも力を緩めたら放り出されてしまう。
もう腕の力が入らない……無理だわと思った時、アルが手綱をとり、グッと抑え、馬をなだめる。私の手がしびれ、ずり落ちかけたところを受け止めてくれた。屋敷の人たちが、事件だと気づき、駆け寄ってくる。
「怪我はないか?」
そう尋ねてくるアルに私はコクコクと頷くことしかできなかった。すぐには動けず、自分の体が震えていることに気付いた。
ギリッとアルが奥歯を噛み締めて、目を鋭くさせた。
「公爵邸内にネズミが侵入している可能性がある。探しだせ!逃がすな!」
私の体を抱いたまま屋敷の人達に向けて、アルは声を張り上げる。シリルが即座に反応し、周囲に不審な者がいないか調べるように指示を出し、動きだした。私が乗っていた落ち着かない馬は宥められながら、連れて行かれる。
「なにがおこったの……」
まだ震えている体を私はギュッと抑える。なにも馬に変わったことはしていない。そして馬術には自信があった。
「馬がこんなに荒いわけがないんだ。どれも穏やかな馬ばかりなんだ。事件性がもしかするとあるかもしれない」
「事件?」
事件って……そこまで大きな話になるの!?
「なにか馬に仕込んであったか、どこからか忍び込んでいる者がなにかしかけたか。このオレの屋敷でよくもこんなマネをしてくれる」
怒りで険しい顔をし、遠くを眺めているアル。ふと、私は気付いた。
「アル……女性に触れているけれど大丈夫なのかしら……?」
ハッ!としたアルは私の顔を見た。その瞬間、うわあああ!と叫ぶ。
顔にブツブツと赤い発疹が出てくる。そしてぜいぜいとした苦しそうな呼吸が起こる。慌てて、私は立ち上がって彼から距離をとった。アルがフラリとよろけて立ち、来るなよ。近づくなよと呟き、屋敷へ入っていく。
母様!と走ってきたフランに、私は大丈夫よと言って安心させる。
「母様……アルが……?」
「ちょっと体調くずしたみたい。フラン、私は怪我もないし、大丈夫だから、アルを助けてあげて」
お願いと私が頼むと、フランはうんと頷き、走っていって、アルを支えてあげる。ありがとうと彼は言いつつ……私の方は一切見ないまま、行ってしまった。
アルのアレルギーが、ここまでひどいなんて思わなかったわ。しかも私のせいで大変なことになってしまった。どうしよう……私は呆然として見送るしかなかった。
周囲は騒然としていて、警備兵たちが騒いでいる声が邸内に響き、夕闇がもうすぐそこまで迫っている。楽しいはずの乗馬の時間は一気に覆って暗い気持ちにさせたのだった。
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