第25話 ガーデニングをはじめようと思っています

 累々るいるいならぬいし累々るいるい


(いや、石に死んでいるとかないと思うけど)


 ともかく、石像の残骸がゴロゴロしている部屋の中を、リッカはトウジに手を引かれながら奥へと進んだ。

 そして辿り着いたのは、やたら豪華な宝箱の前だ。大きな宝石がゴテゴテと箱の表面を飾っている。


「箱だけでもお宝になりそうね」


「残念ながらダンジョンの宝箱は動かせないんだ。宝石だけでもむしり取ろうとした奴もいたらしいけど、強奪目的で触れたとたんダンジョンから強制退去になるらしい」


 それはちょっと残念だ。


「そっか、それじゃ触れませんね。この緑色の石なんて、とっても綺麗だなと思ったんだけど」


 リッカが残念そうにひとつの宝石を指さしたとたん、その石が宝箱からポロリと落ちる。


「え?」


「うわっ……そうきたか」


 コロコロとつま先へ転がってきた宝石から、リッカは思わず後退った。


「……えっと、これって?」


「ああ。たぶん拾っても大丈夫だと思うよ」


 トウジは苦笑しながら保証してくれる。


「本当? 外へ飛ばされたりしない?」


「うん。リッカならね」


 どうして自分なら大丈夫なのだろう?

 いまいちわからなかったが、リッカはトウジを信じることにした。今まで彼の言うことに間違いなかったからだ。


 そして思ったとおり宝石はあっさりと拾えてしまった。リッカは拍子抜けしてしまう。


「強制退去の仕掛けは箱の方についていたんですね」


 宝石にはなんの仕掛けもなかったのだ。


「そうだね。か。……そういえばリッカは、宝箱から出てほしいのは相変わらず食品だけなのかな?」


 トウジは唐突にそんなことを聞いてきた。

 なんとなく話を逸らされたような気がするのだが、とはいえ聞かれた内容は難しいものではない。


「う~ん。ほしい食品はあらかた手に入ったから……そうね、今度はの道具とか入っていると嬉しいかも」


「ガーデニングかい?」


「うん。庭でハーブとかミニ野菜とか育てられたらいいなと思っているの」


「……その石みたいな宝石はいらないの?」


「これは、色合いがからほしかっただけよ。実際、なんていう宝石なのかも全然わからないし」


 高価な宝石がほしかったわけじゃなくトウジの目の色に似ていたから気になっただけ。リッカがそう伝えれば、トウジは少し狼狽えたようだった。


「そ、そっか。俺の目の色に。……ありがとう。綺麗だって言ってもらえて嬉しいよ」


 照れたように笑うトウジは本当に綺麗だ。眼福だなぁとリッカは心の中で呟く。


 ――――すると、ゴトンと宝箱から音がした。


「今なにか聞こえました?」


「……そうだね。とりあえず開けてみようか?」


 トウジはスタスタと宝箱に近づいていく。そして、躊躇なく蓋をガバッと開けた。

 彼の後ろをついていったリッカは、恐る恐る中を覗きこむ。


「ハハハ、


 トウジは乾いた笑い声を上げた。


「え? これって――――」


 一方リッカは驚いてしまう。なぜなら宝箱の中身はバケツにジョウロ、ハンドスコップの三点セットだったのだ。しかも全部緑色。


「…………すごい! さすがビィアね!」


 一瞬言葉を失ったが……ここは素直に喜ぶことにした。きっとここでもビィアの幸運を招く『設定』がいい仕事をしてくれたに違いない。

 ほしかったガーデニング用品が手に入ったリッカは、ビィアを抱き上げその場でクルクルと回りだした。


「どう見たって話を聞いていて、たった今しました……って中身だけどね」


 トウジは呆れ顔。

 そんなはずないだろうと思ったリッカだが、反論するのは止めておいた。





 その後、同じように宮殿のトラップをくぐり抜け宝箱を開けていく。

 中身は、ガーデニング用の肥料や培養土、支柱やフェンス、長靴等々。


「園芸用品店が開けそうだね?」


 九階のボス部屋の宝箱から出たを前に、トウジが苦笑を堪えていた。


 ちなみに九階のボスはゴーレム三体。ずっとビィアばかりに任せては申し訳ないからと、トウジがサクッと倒してくれた。


「この脚立とっても軽いわ。いったいなんでできているのかしら?」


 トレーの付いたがっしりした造りなのに持ち上げれば羽のように軽い脚立に、リッカは興味津々だ。


「……に見えるね」


「ミスリル! それってすごく稀少な金属でしょう? すごい! 世の中にはミスリル製の脚立なんてあるのね」


 リッカは感心しきり。


「いや、世界中探してもミスリル製の脚立なんてこれだけじゃないかな」


「そっか。ダンジョン産ですもんね。魔剣とか聖剣とかドロップすることもあるんだから、ミスリル製の脚立くらい出ますよね。さすがダンジョン!」


 トウジはなぜか頭を抱える。


「次はいよいよ十階ね! ここと同じ宮殿型ですか?」


 勢いこんで聞いたリッカに、トウジは首を横に振る。


「いや、十階は砂漠だよ」


「砂漠?」


 リッカは目を丸くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る