全治一年余命二年

@kame0530

第1話 病気を知った日

「んー…ぎりぎり間に合わないかもしれないな」


僕の名前は渡部治わたべおさむ、十六歳だ。どこにでもいる男子高校生。別に何か才能があるわけでもなく、かといって悪い部分があるわけでもない平凡な人間だ。

両親は事故で他界していて、今はおばさんのとこに居候させてもらっている。最初は働く気だったがおばさんが高校に通わさせてくれたのだ。

本当にありがたいことだ。

今僕は友達に遊びに誘われて向かっているところだ。おばさんが高校に通わさせてくれなければきっとこの友達にも出会えなかっただろう。


「えーと確か…ここを曲がった…ん?」


なんだか…頭が?

違和感を感じる。痛みとは違う。


「…?…なん…だ…!?」


そのあと僕は倒れて、意識を失った。

ーーーーーーーーーー


「…」


僕は真っ白い空間で目が覚めた。

と、思ったらここは…病室?


「あ、目が覚めた?ちょっと待っててね、今渡部さんをつれてくるから」


そう言って看護師さんはいなくなってしまった。

いまいちまだ詳しく状況が理解できていない。

僕は確か…道端で倒れたんだったっけ…。そしてこの病院に運ばれたのか。


「この病院…おばさんの?」


僕のおばさんは医者だ。それも腕利きの。なんでこんな田舎の病院にいるかわからないほどだ。

さっき渡部さんを連れてくると看護師さんが言っていたから多分おばさんの事だろう。


「あっ!友達との約束…」


そうだ、友達の家に行く約束だったんだ。


「残念ながら、友達の家には行けないけどね」


病室の扉が開き、僕の恩人の姿があった


「久留実おばさん!」

「よっ、元気…だったらここにはいないか。まぁ元気そうだね」

「おばさん、僕何があったんだ?」

「うーん。もう少し落ち着いたら話すわね。私も今少し手が離せなくて…」


そう言いながらおばさんは僕の身体検査を軽くしてしていく。


「うん、まぁ…大丈夫かな、今のところは。」


おばさんはカルテのようなものを書いていく。病室を見渡すと俺以外には誰もいない。隣に一つベットがあるだけだ。

普通の病室はベットが四つくらいあるはずなんだが…


「よし、じゃ私のほうが落ち着いたらちゃんと説明するからそれまで待ってて。ごめんね。」

「いや、大丈夫だよ。頑張って」


おばさんは最後まで申し訳なさそうな顔をしながら病室を去っていった。正直聞きたいことがたくさんあるしなぜそんなに申し訳なそうにするのかと疑問に思った。

そこまで謝ることなんだろうか?

それから3、4時間ほどたった。幸いスマホがあったから暇をつぶすのには問題なかった。友達にも謝っておくことができた。

ドアが開き、おばさんが戻ってきた。


「ごめんね、だいぶ待たせちゃって」

「スマホあったから大丈夫」

「ほかにも必要なものがあったら言ってね」

「うん。ありがとうおばさん。…それで、僕は何か病気なの?」


さっきまでの暇な時間で聞きたくてうずうずしていたのですぐに口から出てしまった。


「…落ち着いて聞いてほしいんだけど…」


おばさんは暗かった顔をさらに暗くして重たい口を開いた。


「治君は今、初めて確認された未知の病にかかってしまっているの」

「…え?」


言葉自体は案外すっかり脳に入ってきたが理解はしてくれなかった。


「えーっと…それって…治らないの?」

「治りはするわ。『未知』であって『不治』ではないもの。治すのに一年ほどかかるわ」

「なんだ、一年で治るんだったらそれくらい我慢するよ」


想像よりも軽かったので僕は拍子抜けしてしまった。重たく考えすぎてしまったのかもしれない。

そんな僕の安心は次のおばさんの言葉で吹き飛んでしまった


「ここからが大切なんだけど…一年で治ってもそのあともう一年で…生命活動は停止する…つまり死んでしまうってことになるわ…」

「…」


絶句、それに尽きる。

理解も言葉も本能も追いつかないその言葉に僕の思考は停止した。


「病気の症状としては細胞がどんどん増え続けて行っている…といえばわかりやすいかしら。その細胞の増加を止めることはできるわ。でもその増えてしまって体は不調をきたしてしまう。それによって死んでしまうのよ」


おばさんも僕がわかりやすいように簡単な言葉で説明してくれるが頭には入ってこない。いや、入っても脳が言葉だと認識しない。


「…ごめんなさい…。私が妹に代わってしっかり育てていくって決めたのに…」

「そっ…それは違うよ!おばさんは悪くない…悪くない…よ…」


誰が悪いわけでもない、運が悪かったとしか言えない。が、それで納得できるほど僕も人間ができているわけではない。


「…何か聞きたいことはある?」

「この病室はなに?見たことないんだけど…」


現実逃避のためにいったん違う話題にそらす


「あぁ…ここは一般的には使わないものね。ここは特別病室。その名の通り特別な人用の病室よ。使ってなかったし、人がいないほうが落ち着けると思ってね。一般のほうにも移せるけど、どうする?」

「…いや、ここでいいよ。一人のほうが落ち着く」

「そう…わかったわ。じゃあ一応明後日から治療が始まるから。それまでにいろいろ心の整理をしといて。」

「うん…わかった」


今日から…二年しか生きれない…?どうしたら…もっとしたいことがたくさんあったのに…。

お母さん…お父さん…僕は…


「てい」


そう言っておばさんは僕の頭にカルテの硬い角をぶつけてきた。


「いっ…た!!!!?何すんの?!」

「そんな思いつめた顔するんじゃないよ。二年もあるんだ。もしかしたらその先も生きていられるような治療法がみつかるかもしれないでしょ?」

「おばさん…」

「私もどうしようかって悩んでたけど…治君のめちゃくちゃ悩んでいる顔見て私がしっかりしなきゃって思ったわ。」


そう言って笑うおばさんを見て少し落ち着いた。


…あきらめたら負けか。


「そうだね…落ち込んでちゃだめか…。うん!僕、残りの二年を楽しむ気で生きるよ」

「いや、もっと伸ばして見せる!…自信はないけど」

「ないのか…」

「ちょちょちょ…落ち込まないでよ…楽しむんでしょ」

「はは、冗談だよ」


そうして僕は全治一年余命二年の病院生活が始まった。

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