第32話 独立愚連隊、病院へ

「ウトト、行先を変えたい。工場へ行くのは後回しにする」


 怪獣ラジュードとして牧場を燃やし尽くしたジゴーがいつも通り目を覚ますと、第一声がそれだった。


「わたしは別に構いません。ジゴーの行きたい場所に従います」


 ウトトは特に顔色を変えることもなくそう答えた。


「ですが、どこへ行くつもりですか。何か気になるものが見えましたか?」しかして、当然そうも訊ねた。


「道路がいくつか。それと、その先に多分、かなり大きな病院がある。南東だ。一度高いところに出て、改めて周囲を確認する必要はあると思うが」


「ジゴー。まさか」


 ウトトはちらりと、やや離れた位置にいるスラとルダンを見た。


「勿論、とっととあいつらを国に届けたり、工場に連れて行って満足させて返したりするのが一番いい。おれもそう思う。だけど……」


 ジゴーは気まずそうに顔を伏せた。それに対し、ウトトは微笑んで彼の手を握った。


「いいえ。わたしは、ジゴーのそういう、お節介なところを知っています。いつも言葉は物騒ですが、あなたの行動にわたしは救われたのですから。わたしはあなたのやりたいことを信じます」


 そういってウトトは彼から離れ、地面に置いた荷物に手を掛けた。


「二人とも、もう出ますよ。行先は変更です。オークの病院見学に行きましょう!」


「なんだって? それは、姫のご意向に背く」ウトトの元気な言葉にまずルダンが反応した。


「いいえ。わたしは構いません。ですが、なぜでしょうか」


 スラは落ち着いてウトトへ振り向き理由を訊ねた。


「ジゴーの気分です」ウトトは澱みなくそう答えた。


「気分……」


 スラは訝しむようにジゴーを見た。すると、ジゴーはまるで観念したようにため息をつく。


「お前は、おれがここで家畜同然の人間を憐れんで怪獣になったって、そういったな」


 ジゴーは目線を合わせずに、スラへ向けて言葉を放つ。


「半分ぐらいは、そうかもしれない。でも残りは違う。魔界のことが知りたいなら、工場は外から見るだけで十分だ。それより、もっとたくさんの魔族を見た方がいい」


 そう言って、ジゴーはさっさと立ち上がる。


「それから、別に病院だろうと、おれは壊す。それだけはやる」


「ええ。信じています。あなたはこの魔界を壊す。あなたのしたいことを、妨げるようなことなどいたしません」


 ジゴーの言葉に、スラはよどみなくそう答えた。


「別に、姫が構わないならよいのですが、どんどん王宮から離れていきますね……」


 ルダンだけがただ一人、懐かしむように北を振り見た。

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