黎明と煙
古野トウカ
第1話
時計が4時を示す。空はまだ黒色が広がっている。俺はベランダに出て慣れた手つきで煙草を取り出し火を付けた。ベランダがフルーティーでほのかに甘い匂いに包まれた。煙草から出ている煙は9月の涼しい風に運ばれ、薄れていく。それを見るといつも俺は寂しさを感じるのだ。俺はタバコが好きじゃない。大人が言うほど美味しくないし、身体にはもちろん悪い。だけど、あの人の匂いを忘れたくて4年間吸い続けている。ただ、どれだけ吸っても主流煙では満たされることはない。きっと満たせるのは彼女のはく煙だけだろう。3本くらい吸った頃、黒色の空が少しずつオレンジ色になってきた。
「あの時もこんな景色だったな」
俺は煙のように風で消えてしまいそうなほど小さな声でつぶやいた。そして思い出す、彼女と出会った時のことを。
9月10日、その日は俺の誕生日だった。20歳になった俺は友達の誘いで酒を飲みに、少しだけ豪華なバーを訪れた。そこは落ち着いた雰囲気を放っていた。私はそんな雰囲気とは反対に今まで感じたことのない雰囲気に興奮を隠せなかった。友人は慣れているのか淡々と注文を済ませ、イラつくほどカッコつけて椅子に座り、引っ叩きたくなるようなドヤ顔を見せた。そうしていると店主は俺たちの前に酒を置いた。当時の俺は酒の知識なんて全くなかったのでどんな味わいがあるかもわからず適当に飲み進めた。友人は相変わらず腹たつ仕草でグラスを手に取り、嗜むように酒を口に含んだ。
1時間後、友人は完全に酔っ払い、台に突っ伏していた。そして、体調が優れなくなったのか
「おれぇ、しゃきけえるわぁー」
と言ってなんとか2の人分支払いを終えて、千鳥足で夜の街に姿を消した。俺は初めての酒だったが、物足りなさを感じてもう少しだけ飲むことにした。どうやら俺はそこそこアルコールに強いらしい。再び同じ席に戻った時、友人が座っていた席の隣に女性が頬杖をつき座っていた。普段なら誰かがいることを気にしないが、彼女ほんのり赤い頬と可愛いというより美しいという表現が似合うほど整った顔に目を奪われてしまった。俺はハッとして椅子に座ってグラスに少し残った酒をゆっくりと飲んだ。だがそんな時でも俺は彼女から目を離せなかった。彼女の顔をチラチラと眺めていると彼女の赤い頬に一粒の水滴が伝っていった。彼女は涙を流していたのだ。俺は彼女の寂しそうな雰囲気に思わず声をかけた。
「あ、あの」
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