二人の男

@ilpt28

二人の男

1. 夕暮れの喫茶店。むき出しの換気扇がうなる隅の席、人目を避けるように二人の男が座っていた。

「次は、こいつだ」

一枚の写真を机にポイと投げる、読み捨てた新聞を放るように。投げた写真には一人の女性、見慣れた服、靴、そしてもうあなたのものじゃないわとそっぽをむく彼女の顔。写真にやっていた目をあげた時ちらりと盗み見てくる目と合った。今回の実行役は知らぬ顔だなどと考えながら視線を合わすと盗み見ていた目は写真へと逃げていった。どんな依頼も「上」は引き受けているようで、女との関係を知ってか知らでか実行の指令はあっさりと出た。机の下には紙袋が一つ、そいつを足で男の方に押しやる。中身は拳銃と消音器。

「今晩だ」

いつもの通り小銭を机に並べ席を立つ、何事もなかったように。

残された男は写真をいつまでも見つめていた。しばらく目をつむったのちに決心でもしたように席を立ち、遅れて店を出て行った。店員の心無い挨拶が背を追いかける。

2. その夜は二人の男にとって特別な夜だっただろう。

紙袋を片手にどこへ寄るともなく家に戻った男はシャワーを浴び食事をした。夜がふけてチャイムがなり、やってきたのは女である。

「待った?」

「いいや、さあ入って、映画でも見よう」

「ええ」

暗くした部屋のベッドで映画を見る二人、ラブロマンスは絶頂を迎えた。

一糸纏わぬ姿で眠る彼女を横目で眺めながら男は静かに引き金を引いた…。

では先に帰った男はどうだっただろうか。彼はゆったりと椅子に腰掛け本を開いていた。しかしそのページはいつまでも進まない。しばらくして諦めたように進まぬ本を閉じ、かわりに渦巻く思考が加速してゆく。掛け時計をいくら睨んでも、時計は逆に回ることはない。

3.翌日の昼過ぎ喫茶店の隅には再び二人の男の姿があった。足に押された紙袋が机の下を滑り、水に浮かぶ氷が僅かに奏でる音以外に会話はなかった。ただその静けさを縫うようにむき出しの換気扇はうなり声をあげていた。

4.依頼はいつもそつ無くこなされる、冷酷なほどに。予想通り男の元へ封筒がきたのは3日後だった。消印も切手もない見慣れた封筒、こいつを受け取る側になるとは。入っているのは血塗られた肌をまとった女の写真、あの女の写真。意識とは裏腹に離すことのできぬ眼差しは一つのものを捉えた。紙袋、それはあまりに雄弁だった。ここが誰の部屋で、その夜何があったのか。

崩れる男を見下し、無関心を決め込んだ掛け時計の針は日々の業務を淡々とこなしていた。 


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