陰キャ女子たちが俺のボロアパートから出ていってくれない~一夫多妻が推奨される世界で始まるワンルーム共同生活~【完結!】

佐橋博打@ハーレムばかり書く奴🥰

第1話 一軍にも五軍にもなれない男

 薄い壁の部屋に猛烈に響き渡るアラームの音。

 音が止んでようやく半分目を開いた俺は、スマホの時間を見て落胆した。


「あぁ……! ち、遅刻だ……」


 一人暮らしをする上で、困ることなど両の手では収まりきらない。

 その中でも実感しやすいのが、朝を知らせてくれる存在がいないことである。


 高校に入ったら自立するのだと謎に意気込んだ。

 そうすれば少しでも大人に近づけると思えたから。


 そして実践してからはや一ヶ月。

 いかにそれが困難で金がかかることか身にしみた俺は、すでに限界が訪れかけていた。


 ぼろアパートの天井を布団の上で仰ぎながら、俺は呟く。


「はぁ、起こしてくれる人が欲しい。……学校行かなきゃ」


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 その日、結局一時間目の授業には間に合わなかった。

 二時間目に差し掛かる休み時間に、俺はひっそりと席につく。


 恐らくは誰も俺が遅刻したことを気にも留めていない。


 このクラスにおいて俺、神瀬 遊里かみせ ゆうりは空気のような存在だからだ。


 もちろん、みんなに必要な存在という意味での空気ではない。

 いてもいなくても変わらない存在という意味だ。


 クラス内のヒエラルキーを一軍や二軍などと呼ぶことがある。

 陽キャと呼ばれる活発な集団ほど番号が若くなり、陰キャと呼ばれる根暗なものがそれに続く。


 俺はクラスの一軍でも五軍にもなれない。


 軍というからには、まとまったものである。

 陽キャは当然のこと、陰キャだって同じような仲間と集まって楽しんでいる。


 一方の俺には彼らのような集まってくれる何かが無い。


 俺だって友だちが欲しくないわけじゃない。

 でも機会を待っていたらこうなっていたのだ。


 二時間目、公民の時間。

 みんながうつらうつらしている中、俺は十分に寝たこともあり、先生の話を聞いていた。


「まぁみんなはまだ入学したばっかだけどもー、あれだよねぇ……高校生活っていうのは一瞬だからねー……そっから進学するなりー……就職するなりねー。もう……すぐに来ちゃうからねぇー……」


 やたら間延びする先生の話に耳を傾けながら、俺はふと考える。


 友だちも作れない俺が、果たして上手く進学や就職の面接を突破できるのだろうかと。

 大抵は部活での話になるのだろうが、俺はまだどこにも入部していない。

 運動部は端から無理だし、文化部も見学はしたが今いち肌に合わなかった。


 そこで俺は思いつく。


 自分で部活を作ってしまえばいいんじゃないか、と。


 変に思い切りのいいところがたまにあるのが、俺の短所であり長所でもあると自負している。

 今回はそれが好転するように祈ろう。


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 昼休み、俺は購買で買った焼きそばパンを頬張りながら中庭でベンチに腰掛けスマホを眺めていた。


「何の部活にするか……うーん。やっぱ漫研……かな。いやでも……俺、漫画下手だしな……」


 漫画雑誌の大賞などにも送ったことはない。

 ネットに不定期で上げてはいるが、ファンはいないに等しかった。

 あくまでも授業中の暇つぶしレベルの画力、下手の横好きだ。


「俺が書いてるのはイラストとか漫画っていうより、落書きなんだよなぁ……。落書き……落書き……あ、そうか! 落書き部……っていうのはどうだろ?」


 ちょうどいいゆるさのあるネーミングを見つけた。

 これなら俺でもやっていける気がする。


 顧問もおらず正式な部活ではないものの、必要なのは誰かと何かをした経験だ。


「よし、そうと決まればやるぞ……!」


 校内で呼びかけるのは恥ずかしくてできない俺は、SNSを使って人を集めることにした。

 アカウントを開設しようと思ったが、すでに絵を描く用のアカウントは持っていたのでこれを使うことにする。


「フォロワーは……まぁ相変わらず少ないけど、ゼロから始めるよりマシかなぁ」


 そして勧誘のための文章を作る。


 名称は『北條きたじょう第一高等学校 落書き部』

 活動時間は放課後。

 活動内容は自由気ままに落書きをして褒め合う。


 活動場所は――。


「あっ、場所どうしよう。空いてても教室勝手に使ったら追い出されそうだし……。とりあえず集まってくれた人と話してから決めるか……そうしよう!」


 それで俺はひとまず、オリエンテーションの場としてある場所を指定する。


「俺の家、しかないよなぁ……。大丈夫なのか、こんなこと書いて……」


 しかし背に腹は代えられず、集合場所に自分の家を指定する。

 詳しい位置はダイレクトメッセージで知らせると追記した。


 送信し終わり、俺はベンチで寝っ転がる。

 そして大きくため息をついた。


「さすがに……厳しいか」


 諦めていたそのとき、握っていたスマホが震える。

 通知の合図だ。


 あれだけ朝、スマホの振動に反応できなかった俺だが、このときだけは違った。


 目をカッと見開きながら、通知欄を確認する。


 そこには一つのメッセージがあった。


「『参加したいです。DMダイレクトメッセージ送りますね』」

「……えぇ!? この人って……」


 その送り主はよく俺の絵をお気に入りに登録してくれる人だった。

 上手なウサギのイラストアイコンが目印になっている。

 しかし、メッセージをくれたのは初めてだ。


 俺は嬉しさに震える手で、家の場所を記載したダイレクトメッセージを返す。

 そして喜びがジワリと溢れる胸の上にスマホを置いた。


「やったっ……。どんな人なんだろ……」


 このときの俺はまだ、の愛の深さを知らなかった。


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