第6話 下校

「のり君。今日も一緒に帰ろ」


「うん」


 陸上の半日練習が終わり、お互いに制服に着替えた靖典と飛鳥。今日も飛鳥から誘いを受ける靖典。


「俺も一緒に帰っていいか? 」


 西浦が2人の前に顔を見せる。


「私もいい? 」


「あたしも! 」


「うちも!! 」


 練習で靖典を取り囲んだ3人の女子部員も2人の前に姿を見せる。


「のり君はどう? 私は良いけど」


 飛鳥は靖典の回答を待つ。


「俺も問題ないよ。断る理由も無いし」


「だそうです。それでは一緒に帰りましょうか!! 」 


 飛鳥の1声で靖典を合図に、各々が帰路に就き始める。


「それにしても。高梨君は素晴らしい才能を持っているな。100メートルで君に勝てる部員は居ないだろうな」


「私もそう思います!! 」


「高梨君はすごい!! 」


「足速すぎ!!! 」


 3人の女子部員も西浦に同意する。全てが靖典への賞賛だ。


「そうです!! のり君はすごいんです!!! 才能の塊なんです!! おまけに謙虚なんです!! そこがまた良いと言うか」


 飛鳥は自分事のように嬉しそうに破顔する。西浦を含めた4人に対抗するように靖典を褒めちぎる。


「褒めすぎだよ」


 照れ臭そうに頬を掻く飛鳥。


「大袈裟じゃないよ。だって事実だし」


「そうだな。山森に異論はない」


 飛鳥の言葉に西浦も賛同する。


 3人の女子部員も立て続けに首を縦に振る。


(あれ。俺なんか輝いてない? )




「高梨!! 今日一緒に帰らないか? 」


 高谷と同期部員の1人が康人を誘う。


「ずるいぞ!! 俺も高梨と色々話したいのに!! 」


 部員1人の誘いが皮切りに学年関係なく多くの部員が康人に押し寄せる。


「落ち着いてください。みなさん一緒に帰りませんか? 」


 柔和な笑みを作り、康人は冷静に対応する。


「おう。高梨がそう言うなら」


「俺も賛成だ」


 康人の提案に次々と部員が賛同する。誰も異論を唱えなどしない。


「それじゃあ決定で。皆さん一緒に帰りましょうか! 」


「オッケー!! みんな帰るぞ~~」


「腹減ったわ。もう13時だしコンビニでも寄らないか? 」


「いいね~。決定な!! 」


 康人の声掛けを号令として、男子部員が一斉に体育館の近所から正門に移動する。


 バスケ部員が列を作って正門に差し掛かる。


 一方、男子部員にも関わらず1人だけ後れを取る様に荷造りする部員が存在した。それが高谷だ。


 彼は完全に以前までの立場を失っていた。チームメイトからの羨望と信頼は消え去っていた。


 誰も高谷を褒めないし、彼の下に集まりもしない。完全に1人ボッチであった。そんな高谷を誰1人として気にも留めない。


 部内で1番強くない高谷に価値など皆無だった。


 そんな状態に陥った高谷は未だ俯きながらカバンに荷物を仕舞い続けた。

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