親友だから

古野トウカ

親友だから

 「お前とここに来れて良かったよ」

 私は恋をしていた。相手は全くイケメンじゃないし、空気も読めないような男だ。だけど、人との距離を詰めるのが上手な明るい人だ。彼と出会ったのは中学校に入学した日のホームルームだった。彼は友達の少ない私に明るく話しかけてくれた。話しているうちに同じ趣味を持っているとわかり、そこから少しずつ距離は縮まっていった。それと同時に彼の明るさに心は惹かれていった。

 三年生となってもその思いは変わらずにいた。だが、私はなかなかその思いを伝えられずにいた。それでも彼と一緒にいることは誰といるよりも楽しく安心感があった。楽しい日々を過ごしているといつの間にか修学旅行前日となった。行先は函館。一日目の最後には函館山から夜景を見る。そこでは毎年、好きな人に告白するのが伝統になっているらしい。その時、彼に告白するならその時がチャンスだと思い、計画を考えた。どう告白するか考えているとあっという間に夜は明けてしまった。

 私たちはバスの席はもちろん、宿泊するホテルでも一緒の部屋になった。昨日夜更かししていたせいか出発してから函館へ到着するまでの記憶はなかった。彼とバスで話すこともとても楽しみだったのに。函館に到着後、さっそく自由行動は始まった。楽しい時間はあっという間だった。様々な観光地を回り、お土産もたくさん買って写真もいっぱい撮って買い食いもたくさんした。一秒一秒が、彼の笑顔が、とても良い思い出となった。そして、函館山に登る時間がやってきた。山を登るバスの中では心音が彼に聞こえるのではないかと思うくらい心臓が高鳴った。吐き気がするほど緊張した。人生で一番長い三十分を終えて展望台に辿り着いた。展望台では景色が見えないほど人は混み合っていた。どこから見ようなどと考えていると、「こっちから見えるぞ」と彼に手を引かれた。人混みをかき分けついた先では、先ほどまでいた函館の景色が広がっていた。だが、自由行動の時とは全く違い、暗い夜に星のような暖かな光が街に溢れかえっていた。彼はその光景に目を奪われていた。その目は暖かな光を反射している。私は彼の目に映る光から目を離せなかった。

 その時、とあるカップルの女性が「ハートを見つけると恋が叶うらしいよ」と言っていたのが耳に入った。彼にも聞こえていたのか、彼は「どっちが先に見つけられるか勝負しようぜ」と言った。こんな事は気休め程度にしかならない事はわかっているが私は必死になって探した。


 「見つけた」


 最初に見つけたのは彼だった。彼はまるで子供のように喜んだ。その無邪気さがとても愛おしかった。そして私は愛を伝えようと乾燥した唇を開いた。

 「君の事が好「親友のお前とここに来れて良かったよ」


 その言葉は彼の大きな声と冷たい強風によってかき消された。その時、私の中の何かが壊れた気がした。だがまたすぐに愛を伝えようとした。けど、彼の目は相変わらず無邪気で温かい光を放っている。そして、「俺、あいつに告白しようと思ってるんだ」ただでさえ壊れた何かを彼は粉々にした。その目で私を見ないで。きっと彼は私を愛すことはない。知っていたんだ。最初から。だって私は男だし、彼には好きな女性がいることだって知ってた。私が愛を伝えたならば彼と私の関係は壊れてしまう。それが怖い。だから私は何も言えなかった。やっとのことで出した声は嘘をついた。

 「応援してるよ」

その言葉を聞いた彼は親指を立てて走り去った。独り取り残された私は景色をじっと眺めていた。不思議と涙は出なかった。私はただひたすらに呟いた。

 「彼は親友彼は親友彼は親友彼は親友」

 乾燥した冷たい風が私の頬を叩き続けている。


 色々あって修学旅行は終わった。彼の告白は成功したようだ。私はいつもと変わらぬ調子で彼を祝福した。彼は私に尋ねた。「何かやり残したことはある?」私は少し考え答えた。


 「ハート、見つからなかったな。」


 卒業後、私たちは違う高校へと進学した。

未だに彼とは交流を続けている。ある日、彼とメールをしていると高校の友達は笑いながち尋ねてきた。「なんだ、彼女か」私はいつも通り明るく言った。


 「違うよ、だって彼は親友だから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

親友だから 古野トウカ @Nopuru007

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ