第15話 オニオンズ
「ハハッ!」
妙に場違いな渇いた笑い声。謎の集団のどれもが全て同じ声を発していた。普通はそんなことあり得ない。全て身内、兄弟だったとしても微妙に声が違うはずなのに。四つ子ならあり得るか、とも考えられるが、こんな異様な集団が存在するのだろうか?
「ハハッ! ゲイリー!」
その内の一人が驚くべき単語を発した。ゲイリー……だと? 同じ髪型、同じ背格好。目の前にいる連中は装備がそれぞれ戦士、魔術師、弓使い、武闘家と違ってはいるが、その姿はまさしく俺の良く知るアイツその者でしかなかった。
「オニオンズ。」
「……は?」
「コイツらはクソ羊の兵隊、オニオンズだ。コイツらは人間みたいに見えても人間じゃない。いわゆるホムンクルスと呼ばれる生命体だ。」
「ニヒィッ!!」
不気味な笑みを浮かべながら、俺と犬の魔王を囲い込もうとしている。敵意を剥き出しにして袋だたきにしようという意志がありありと感じられた。
「ゲイリーなのか? なんでお前がここにいる? なんでお前が四人もいるんだ?」
「勘違いするなよ。似てはいても、アンタの知っている個体とは別人だ。説得は諦めるんだな。」
「ハハッ、タコ殴り!!」
ゲイリーにソックリなオニオンズとかいう奴らは有無を言わさず。攻撃をしかけてきた。俺と犬の魔王は背中合わせになっているので、それぞれ二人ずつ相手をする体勢になった。俺の相手は弓使いと武闘家だった。
「チョエアーッ、ホチャーーッ!!」
武闘家タイプは謎の奇声を上げながら猛烈な勢いの後ろ回し蹴りを放ってきた。俺は身を屈めてギリギリで躱すことに成功した。髪の毛を掠めていったそれは明らかに即殺出来そうな程の威力を秘めていた。素手とはいえ、それは凶器と変わりない!
「随分と鋭い蹴りだな! いつの間にお前は足癖が悪くなったんだ?」
「あたぁ!!」
俺は立ち上がりつつ、ゲイリーにソックリな男に問いかけた。奴は俺の問いかけに返答することなく、次は突きを放ってきた。相手の様子を見ながら、体を横へ反らして躱す。話を聞こうともしていない。まあ、元々話をまともに貴公とする奴ではなかったが。
「あた! あた! あた! あたた! あたぁ!!」
連続で突きを放ってくる! しかも、次第に放たれる間隔が短くなっていった。横へ逸らしたり、屈めたりするだけでは凌げなくなってくる。後ろへ飛び退きながら躱し続けるが、奴は猛烈な勢いで飛びついてきた!
「あたたたっ!!」
最早、飛び退きでも躱しきれる早さではなくなり、何度か俺に掠める程にまでなっていた。このままではやられる!
「おあたぁっ!!!!」
(ブンッ!!!)
一呼吸、間を置いてから大振りなパンチを繰り出してきた。明らかに直前の突きの連打とは異なる重い一撃。しかも、その拳には別の力が篭もっていた。
(ガシュッ!!!)
俺は奴の拳を見えない刃で受け止めた。峨嶺辿征を使って、奴の企みを事前に防いだのだ。この一撃には明らかに魔力が込められていた。これはおそらく爆裂魔法の魔力に違いない。ゲイリーの戦いぶりは何度も見ていたので、感覚的にそれがわかった。
「格闘技にまで爆発要素絡めるんか、お前は! 全く、とんでもない奴だぜ!」
「ニヒイッ!!!」
奴は拳を見えない刃に受け止められているというのに、そのまま拳を食い込ませてきた。拳には血が滲んでいても、止めようとはしなかった。目の前の奴に気を取られているうちに俺はもう片方の弓使いの事を忘れていた。こちらに向けて弓を引き、狙いを定めているのが視界に入った!
(ジリリッ!)
「ニヒヒッ!!」
遠くにいるというのに弓の軋む音が聞こえてくるようだ。その意識した一瞬の間に、矢が放たれていた。こちらに向かって飛んでくる! 避けようと行動を起こそうとしても身動きが取れなかった。目の前の奴は拳を食い込ませているだけなのに!
「クソッ!?」
「……ちょっと痛いけど我慢して!」
(バゴオッ!!!)
(……ドゴァァァァァァン!!!)
俺は激しい衝撃と共にその場から弾き飛ばされた。少し間を置いてから、強烈な爆音が鳴り響いた。弓使いの放った矢が爆発したのだ! 俺は弾き飛ばされたから助かった。
「危なかった。奴は金縛りでアンタを足止めしてたんだよ。」
「助けてくれたのか?」
犬の魔王が俺に体当たりをしてあの場から救ってくれたみたいだった。機転を利かせてくれなかったら、爆発に巻き込まれていただろう。と、思っていたら、敵さんもこの隙を狙わないはずがなかった。
(ドド! ドン!!)
こちらに二発の爆熱火球が飛んできていた! 多分、魔術師タイプの放った攻撃魔法だ! 体勢を瞬時に立て直した俺はあの技で迎撃した。
「霽月八刃!!」
(バシュ、シュン!!)
火球は瞬時に消え去った。今度はこちらが犬の魔王を救うことになった。貸しはすぐに返すことになった。
初対面の魔王と息の合った連携、見覚えのある味方だったはずの男に襲われる。全てがあべこべな事態に発展していることに、変な苦笑いがこみ上げてくるのを堪えきれずにいた。
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