第9話 ほれ、あのアレがナニして……、
「さあ、次行くぞ。日が暮れるまで出来る限り回るんだ。」
俺達は酒場を後にして、他を回る事にした。バリカタ・パイタン親子と話をした後、他の目撃者にも話を聞こうとした。でも、すでに酔いが回っている人ばっかりだったため、後日に回すことにした。しかも、しきりに酒を勧められる結果になり、捜査どころではなくなったため、酒場を出る羽目になった。
「やっぱ酒場じゃまともに情報を聞けやしないな。」
「一発目に当たりを引いたからラッキーだったとでも思っておけ。それだけで十分な収穫だった。」
酒場に入った時刻がたまたまタイミングが良かったのだろう。まだ客も飲み始めだったので、あの親子も酔いが回っていなかったため、会話が成立したのだ。
「しかし、あの殺気の正体はなんだったんだろうな?」
「さあな。少なくとも俺らを警戒している人間がいるかもしれない。こちらも気付いていないフリをしながら、用心しておくべきだろうな。あちらが尻尾を見せるまで、じっくり待つんだ。」
酒場で話を聞いて回っている間に怪しそうな人がいない確認だけはしていた。だが、それっぽい人はいなかったのだ。地元民の常連はみんないい人っぽかったし、ただの観光客も普通な感じだった。
「おい、見ろ。次はあの人だ。この町の長老的存在の爺さんだ。」
町の広場に設置してあるベンチに小柄な人影が腰掛けているのが見える。小柄というよりも小人、いや赤ん坊くらいのサイズの人がいた。頭の上にある耳、からだには毛が生えているので獣人なのは一目でわかった。コボ……ルト?なんだろうか? タニシ達とはかけ離れた外見をしているので断定しがたい容姿をしていた。
「なんかあの人プルプル震えてない?」
「まあ、あれだろ。老人にはありがちな現象ではあるな。俺らの知っている老人とはイメージが違いすぎるけどな。」
なんかちっちゃくてかわいい。そんな感じの人だった。コボルトの中でも最小の種族チワンヌ族の老人、それが目の前の小さな獣人の正体である。名前はアイフリュさんだったはず。事前にピエール君から聞いていたよりも遙かに小さくて華奢な人だった。
「あの~、ちょっとお話聞かせてもらっていいですか、お爺さん?」
「ほえ? どなたじゃったかのう?」
「ホテルのオーナーの知人です。」
「お? おお!? あの、アレか?」
常にプルプルしてて今にも○にそうな感じだが、話には応じてもらえそうだ。まあ、事前にピエール君が話を通しておいてくれたから、スムーズに進むのである。そうじゃなかったら、遙かに難航していただろう。
「ほれ、あのアレがナニして……、」
「いや、お爺さん、ナニがアレして、ああなったナントカの事です。」
「おお! アレじゃ! あのナニがアレした話じゃったのう! ソレはアレじゃったから大変だったわいのう!」
「何言ってるか、全くわからねぇじゃないか!」
「ソレはアレですよ。」
「オイ!」
あのアレがナニしてソレになって、かくかくしかじかで……。というのは冗談で、ある程度は向こうにあわせる必要はあるじゃない? お爺ちゃんに付き合ってあげないとかわいそうじゃないか。
「おたくさん、アレか? 盛り場によういる人じゃろ?」
「盛り場?」
「しょっちゅう盛り場で怪しげな事、ようしとるじゃろ? ホレ、あの羊とか牛とか、冠りモンしてナニしてるアレじゃ!」
なんか話がおかしな方向にねじ曲がっていってる気がする。盛り場で冠り物をしながら何かしている人? 大道芸人か何かと勘違いしているのでは? 割と都会ではそういう催し物をしているのは何回か見たことがある。この町でもそういうのはやっているんだろうか? リゾート地でもあるし。
「でもソレ、俺らじゃないっすよ? 大体、冠り物してる人の素顔なんて見たことないでしょ?」
「なんじゃ? おたくさん、今冠りモンしとるじゃろうが? どれ、今しがた、素顔を見ちゃるわい。」
(ギュウウウウッ!!!)
「痛い、痛い!? お爺ちゃん、それ、自前の毛とか皮だから!」
お爺ちゃんはナニを勘違いしたのか、俺の髪の毛と顔の皮を強い力で引っ張ろうとする。今の俺が冠り物してると勘違いしているようだ。
「なんじゃ、本当の皮じゃ! 髪じゃ! 本当の人間じゃったわ!」
「俺、人間ですよ! 冠り物してませんよ!」
「なんじゃ、てっきり……。ひょうきんな顔しとるから、冠りモンかと思うたんじゃ。」
「違いねえ。まるで冠り物みたいな不細工な面してるから、間違えるだろうよ!」
「悪かったな! 冠り物みたいな顔してて!」
お爺ちゃんはガッカリし、ファルは遠慮もせずに笑い飛ばしている。失礼な! 俺はいつも冠り物(※額冠のことです)してるが、素顔は冠り物してませんよ!
「おっ!!」
「お? お爺さん、何か思い出しましたか?」
「……こらしょ!!」
「ぶーーっ!?」
ずっこけた! なにか思い出したのかと思いきや、ただ腰掛けていたベンチから立ち上がっただけだった……。ま、紛らわしい。
「婆さんや、飯はまだかのう?」
「ありゃりゃ、もう別の事考え始めてるよ、この人……。」
「しょうがない。そろそろ日が暮れるから家まで送っていってやるとしようか。」
終始、お爺ちゃんのペースに巻き込まれたままで終わってしまった。しかし、羊と牛の冠り物をした人間の話が気になる。老人の戯言かもしれないが、何か引っかかるんだよなぁ……。
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