第6話 あの時、お前は偽物臭かった!!
「似たような格好をした偽物が現れりゃ、何か行動を起こさずにはいられないだろう?」
似てるんなら、こちらで偽物に仕立て上げてしまえ……とかなんとかで囮捜査が発案された。タニシを黒く塗りつぶしてしまえば再現できるんだから、コレほど楽な変装手段はない。後始末は大変かもしれんけど。
「実は俺はお前を見て、この案を思いついた。」
「え? 俺?」
なんで俺が切っ掛けになってるの? 俺に囮要素ある? 俺に偽物……いや、ありえるか? エルの妹、ヘイゼルにニセ勇者呼ばわりされていたことを思い出した。あの娘は頑なに俺を勇者と認めようとしない。それのことを言っているのか?
「初対面の時を思い出せ。お前が俺らの前に姿を現した時の事を。あの時のお前は本当に偽物臭かった。」
「偽物臭いぃ~!?」
「額冠で誤魔化せていたとはいえ、少々、先代のカレルに比べりゃ、勇者のオーラがまるでなかったんだぜ? ヴァル・ムングが仕立て上げた偽物かと疑ってたからな、あの時は。」
俺、偽物と疑われてた! 今になって衝撃の事実が発覚した。あの時、第一村人に発見されなければ、スルーしていたはずの騒動に巻き込まれ、本当に勇者になってしまった。みんな俺をカレルだと思い込んでたみたいだったから、それらしく振る舞っていたが、すでにバレていたとは! 悔しいです!
「でも、お前があまりにも胡散臭くて、ヘタレな感じがしたから、逆におかしいと思った。ヴァルのヤツがこんなマヌケを影武者として採用するのか、と。」
「マヌケで悪かったな、こんちくしょう!」
「ファルさんがあの時の事件から戻ってきたときも、みんな話が信じられなかったですからね。法王庁でも、偽物の可能性があるから、調査せよ、と大騒ぎになってましたからね。」
あの事件は俺の知らないところで、世を騒がせていたとは。法王庁でも、って、俺は下手すりゃ宗教的に裁かれていた可能性もあったということか。恐ろしい話だ。
「話を少し戻すぞ。もしかしたら、カレルが用意した代理人である可能性を考えたわけだ。偽物であっても、まず暴く前に、偽物を仕立て上げた理由とかを考えるもんだ。」
「なるほど! 偽物を成敗する前に、その理由が気にしてしまうってことか!」
「まあ、余程、気の短いヤツでもなけりゃ、偽物を殺しはしないだろう。目撃者を確認次第、跡形もなく消え去るくらいなんだ。黒犬は少なくとも、単純な馬鹿ではない。」
おとなしくコソコソ消え去るヤツが、偽物を見て速攻でブチ切れるはずがない。可能性は全くないとも言い切れないが、ファルの推測は信憑性が高そうだ。
「でも、タニちゃんに襲いかかって来たらどうするんですか? タニちゃんは戦闘の心得がないから、身の守りようがないですよ?」
「この囮調査には危険が伴う。だからこそ俺達が全力でサポートするんだ。手を出させはしないさ。それに俺達最強コンビを出し抜ける存在なんて滅多にいない。」
こんな田舎で人類破滅クラスの大事件が発生するワケはない。俺らを圧倒できるほどの相手が、ちょっとずつ家畜を連れ去るはずがないもんな。そんな相手なら根こそぎ奪っていくだろう。
「そうでしょうけど……。心配です。」
「“神”を自称する男でも敵わなかった位だぞ、俺達は。コソコソ家畜ドロボウするようなヤツがそこまで強いとは思えんからな。」
「大丈夫だよ、メイちゃん。タニシは全力で守るから!」
心配になるのも当然か。何しろタニシは幽霊にビビるくらいだからな。持ちこたえられるか心配するのもわからんでもない。幼なじみだから、タニシがどれぐらい弱いのかも、良く知っているのだろう。
「わ、ワハッ!? あっしは何してたんでヤンス? ウェルカムミルクを飲んでからの記憶が全くないでヤンしゅ!」
あまりの恐怖に気絶する前の記憶が飛んでしまっているようだ。このまま真実を伝えたら速攻でぶっ倒れてしまいそうだ。さらに囮捜査の中核になってしまった事を告げたら……ショック死してしまうかもしれない!
「気にするな! さぁ、俺の分のミルクもやるから、楽しいことだけを考えろ!」
「ワハッ!? やったでヤンス! もう一杯いけるでヤンス!」
「タニシ君、ミルクを飲み過ぎると、お腹壊すジョ? タマネギほどじゃないけど、体質に合わないことを忘れてはいけないんだジョ。」
「その後のゲリゲリでダウンする事も楽しみの一つなんでヤンス!」
「もぉ、タニちゃんたら……。」
ピエール君の忠告もお構いなしにタニシはミルクを一気に飲み干した。人間でもたまにいるのだが、コボルト達も基本、牛乳が体質に合わないようだ。とはいえ毒というほどでもないらしい。後の下痢すら楽しむとは、酒飲みが二日酔い込みで酒を楽しむようなもんなのだろうか? ドMの考えることはワカランわぁ。
「お客様? 黒塗りでしたらコレは如何でしょ~か?」
さっきミルクを持ってきた従業員が何か薬が入ってそうな瓶を持ってきた。ちょ、気を利かしてくれたんだろうが、タイミングが悪すぎる! 囮捜査の件がタニシにバレてしまう!
「黒塗り? 何をするんでヤンしゅか?」
「お客様が囮捜査で変装なさると聞いたモンで~すから……。」
「囮!? 変装!? しょぎゃわぬすっ!? キュウッ!?」
(バターーーン!!!!)
「ああっ!? タニちゃん、しっかりっ!?」
あちゃーっ!? 意外なところからバレてしまった! 従業員も悪気はなかったんだろうけど、間が悪すぎた……。
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