第5話 特別捜査本部、発足!?
「何者なんだろうな、ソイツは?」
ファルが腕組みをして考えを巡らせ始めている。手掛かりらしい物は全くないのでタニシ似のコボルトの情報を集めよう。多数の人が見たって言うんなら、それぞれ別の証言が聞けるかもしれない。あと、あれか。それらが全て同じ黒犬とは限らないしな。ただでさえコボルトを見分けるのは難しいんだし。
「近付こうとしたら消える、ってことは転移魔法でも使ったのかな? 幽霊だったら消えるのは当然かもしれんけど。」
「転移魔法が使えると仮定するなら、それなりの実力者ということになる。警戒は十分した方がいいだろうな。ただのありがちな事件と思っていると痛い目を見ることになる。」
「わひぃぃーーーっ!? どっちに転んでもヤバそうなのが出てきそうでヤンス! お、恐ろしっこ!」
色々行方不明になっているので、ソイツが犯人だとすれば手強い相手なのは間違いない。何しろ痕跡すら残さずに倒すなり殺すなりの事をやってのけているんだから。それだったらまだいいが……、
「もしかしたら、食ってるのかもよ。」
「な、何がでヤンしゅか?」
「家畜とか……冒険者を!!」
「ワひぃぃーーーっ!? お、お、お! 恐ろしっこ! キュウ!?」
タニシは泡を吹いて椅子ごとバタン、とぶっ倒れた。確かに食べ……ていたりして痕跡がなくなっているのかも、と考えると怖くなってくる! 家畜はまだわかるが冒険者……はそうなってない事を祈りたい。
「前々から薄々勘付いていたが、本当に絵に描いたようなヘタレだな、コイツは。お前らのパーティーにいたら心臓が何個あっても足りんだろ。」
「もう、勇者さん! タニちゃんをからかいすぎですよ。」
メイちゃんに怒られてしまった。俺らパーティーのいつものノリが通用しなさそうだ。だって俺とタニシしかいないもんなぁ。
「いやぁ、結構、こういうノリは楽しいもんで、やめられないんだよ。普段なら俺がいなくてもミヤコなり、サヨちゃんがやっている事を俺が代理でやってるようなもんだ。」
「でも大体、タニシ君はいつもこんな感じだから問題ないと思うジョ。」
割と夜な夜な仲間を集めて大怪談大会を催していた、とピエール君は語る。可愛い顔して怪談好きとは。その声で話すとギャップが物凄い事になりそうだ。
「推測はこれぐらいにしておいて、そろそろ現実的な捜査を始めようか? まずは聞き込みからだな。」
ファルが一番やる気を見せている。魔術師ということもあって、一番の頭脳職だしな。俺はやっぱ戦い一辺倒な脳足りん人間なので、捜査とか推理とかは驚くほど似合わない。ここはファルに任せよう。
「よっ、捜査本部長!」
「なんだその茶化し方は?」
「いや、なんとなく。なんかお前、そういう雰囲気醸し出してるし。俺がそれをやったら喜劇みたいになるから、代わりにリーダーやってくれ!」
「……やれやれ。」
立った今、特別捜査本部は発足した! リーダーは俺がやるより、ファルがやった方がそれらしくなる。聞き込み捜査の時もそういう人間の方が様になるはずだ。
「今から始めるんですか? 長旅の後だから休んでからの方がいいんじゃないですか? タニちゃんも倒れたままですし……。」
「そんなに急がなくてもいいんだジョ。原因も不明だから、捜査も長引くと思うんだジョ。」
学院からココに来るまでそれなりに時間はかかっている。二人が懸念するのも無理はない。ヒーラーとリゾート施設のオーナーだから、十分な休息は取って欲しいというのが本音なのだろう。
「お前はソイツを見てやっていてくれ。俺はこの馬鹿と一緒に行ってくる。下手すりゃ、今日発生して、手掛かりを掴むチャンスがやってくるかもしれんからな。善は急げというヤツだ。」
いきなり事件を目の当たりにすることになる……確率は低いかもしれんけど、ないとは言い切れない。早めに聞き込みをして対策はしておいた方がいいのかも。地元住人の手では解決出来ていなかったんだから、力を入れて調査した方がいいか。
「元々、聞き込みは俺達だけでやるつもりだった。タニシには捜査の第二段階で活躍してもらおうと画策していたんだ。そのために今は休んでもらっていた方が得策だ。」
「第二段階? なにそれ?」
すでにそこまで考えていたのか! しかも、タニシの出番ですかい! でもタニシはビビリな上に捜査とかに役立ちそうなスキルを持っていない。鼻が効くということぐらいか。でも、それだったら、この辺の住人だけでもなんとかなりそうなもんだが、果たして?
「謎の黒コボルトはソイツにそっくりなんだろ? だったらそれを活用しない手はない。囮調査ってヤツだ。全身黒塗りにして変装させるんだよ。」
「囮調査ぁ!?」
本人が気絶している間に恐るべき捜査手段が発表された! その手があったか! まあ、似てるんなら、向こうも反応せざるを得ないはず。これは面白いことになってきたぞ!
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