第3話 OK牧場にようこそ!!


「しょぎゃわわーーーーん!?」



 やれやれ。勇者ともあろう人間がこの体たらくとは。休暇のつもりが仕事だったから、ショックなのはわかる。だが、先に別件で放心状態になっていた弟分と同じリアクションをとり続けるのは如何なものか? 血のつながりはないのにこの二人は心の奥底の部分はソックリというワケか。



「タニシ君と勇者さんがおかしくなってしまったジョ。一体、何が起きたんだジョ?」



 いやいや、アンタの発言が発端になってるんだが? 悪気はなかったからこそ気付いていないんだろうよ。



「タニちゃんも勇者さんも何かショックな事があったんですよ。その内、元気になります。二人で悩めば、その悩みは半分こになるはずだから。」



 おいおい、なんだそのトンデモ理論は! 気持ちはわからんでもないが、二人の悩みの理由は共通ではないぞ。メイは時々、天然じみた発想をする事がある。悪いヤツでは決してないのだが、少々、頭がお花畑すぎて対応に困ることがあるのが玉に瑕だ。



「それだったら、しょうがないジョ。ここでじっくり休んで悩みから解放されればいいジョ。」



 まあそれが順当か。ここはそのための施設だ。経営者がそう考えるのも当然だろう。是非とも友人達を悩みから解放してやって欲しいもんだ。



「オーナーさんよ? “牧場家畜行方不明事件”とやらの詳細を聞かせて欲しいんだが?」


「中に入ってから説明するジョ。簡単に言うとこの地域一帯で家畜動物の失踪が多発してるんだジョ。原因も犯人も見当が全く付かなくて困っているんだジョ。」



 現在、歩みのペースは落ちているが、宿泊施設にはだんだん近付いてきている。何しろ牧場自体が広すぎるので時間がかかっている。オーナーは俺達が接近しているのを見つけて迎えに来たようだが、良くわかったもんだな。コボルトの嗅覚がそうさせたのだろうか? 驚くべき察知能力だ。



「原因不明ねぇ……?」



 まあ、農村部ではありがちな事件だな。クルセイダーズの各地支部にも相談がたまに来る。人手の足りない地域では冒険者ギルドに丸投げするケースもある。駆け出しの実績が少ない冒険者にはうってつけの依頼ではある。



「何も証拠が残ってないのか?」



 ハッキリ言ってわざわざ勇者に依頼するほどの案件ではない。だが竜の女帝経由で依頼してくるということはただ事ではないはず。



「な~んにも、痕跡が残ってないんだジョ! 冒険者とかの人に依頼しても、原因がわからなかったんだジョ。遂には捜索していた冒険者まで行方不明になってしまったんだジョ!」


「それは……大事だな。」



 そういうことか。動物どころか、捜査中の冒険者まで行方不明になってしまうとはな。まあでも、冒険者が事件に匙を投げて逃亡した線もないわけではないだろう。危険を察知して逃げ出すなんてケースは良くある話だ。



「で? 俺らはその調査をすればいいんだジョ?」



 オーナーと俺のやりとりに相棒が乱入してきた。さっきから「しょぎゃわ」云々を連呼していたクセに。急に立ち直りやがった。



「なんだよ急に戻ってくるなよ。それよりも口調がおかしくなってるぞ!」


「いや……なんか冷静に考えたら、割と普通の冒険者らしい依頼だからいいかな、と思ったわけですよ。ちょっと憧れてたんだよ、そういうの。」


「脳がシンプルで良かったな。単純なこった。」


「何か言った?」


「別に。」



 何が普通の冒険者の依頼だ。確かに魔王やら英雄やら、伝説の存在ばっかりを相手にしていたらそういう感覚にもなるか? コイツも冒険者ギルドに登録はしているみたいだから、たまにはそういう仕事もいいだろう。



「勇者さんならどんな難事件でも解決してくれる、って女帝様から聞いたから依頼したくなったんだジョ! ……色々話してたら、ホテルに着いたジョ!」


「……おお!? やっと着いた!」



 アホの対応をしていたら長い道のりもあっという間だったな。相棒のアホ話に付き合ってたら、下手すりゃ日が暮れてたかもしれん。宿泊施設の看板には“OK牧場リゾート”とデカデカと書かれている。なんだOK牧場って?



「この“OK”ってのはどういう意味だ? 普通に“OK”とかではないよな?」


「違うジョ。Oは“オガワ”のO。Kは“クラン”。タニシ君とこの名字と僕の家の名字がその名の由来だジョ。タニシ君の家から出資してもらったから名前に取り入れているんだジョ。」


「ほう、なるほどね。」



 牧場の名前の由来を聞きながら中に入っていく。設立に関わっているから、家族ぐるみでの付き合いがあるということか。仲が良くてよろしいことだ。うちの一族はギスギスしてるっていうのに、どこに差があるのやら。うちも見習わないといけないな。



「皆さんいらっしゃいませ、ダス! ゆっくりしていって欲しいダス!」



 従業員にもコボルトがいるようだ。といっても、この男はデカい。オーナーの3倍くらいの背丈がある。警備員も兼ねているのかと思えるくらいのデカさだった。


「で、デカい!? 同じ種族なのにこんなデカい人もいるんか!?」


「彼は最近入った見習いのカール君だジョ。年齢は十八歳だジョ。」


「ええ~っ!? この見た目でタニシやピエール君の年下なの!?」



 これで十八歳か……。衝撃の事実だ。相棒だけじゃなくて、さすがに俺もビックリだぜ。全くコボルトってヤツらはどいつもこいつも個性的だな……。

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