第2話 ピエール君


「しょぎゃわわーーーーん!?」



 ピエール君、いや、ピエールさんとお呼びした方がいいかな? ピエールさんに案内され俺達は牧場の敷地内へと入っていった。今はここを経由して宿泊施設に向かう途中だ。牧場内には羊や牛たちがいる。草の匂いに混じって彼らの糞の匂いも漂ってくる。正に牧場という雰囲気がしてきた。



「タニシ君、さっきから様子がおかしいジョ? どうしたんだジョ?」



 タニシはさっきから「しょぎゃわ」云々を一定時間をおいて口から垂れ流している。俺もショックだったが、タニシはもっと精神的ダメージが大きかったのだろう。



「タニちゃん、ピエール君も心配してるよ? ちょっと落ち着いて。」


「しばらくはそっとしておいてやれ。立ち直るのに時間かかるだろ。」



 ピエールさんとメイちゃんは心配しているが、事情を察したファルは触れないでおくよう気配りしている。ショックだよなぁ。友達が立派に働いてるのにタニシ自身は特に経営とかしてないし、最近挫折したばっかりだ。立ち直れないよ。俺は別の理由でショックを受けたが……やっぱ、持ってる人は何か違うなぁ、と思った。はぁ……。



「タニシ君とはまた後で話すしかなさそうだジョ。その代わりにちょっと勇者さんのお話を聞いてみたいジョ!」



 ピエールさんはただでさえ可愛いお目々をキラキラさせ期待大で俺に話を振ってきた。ホントに同性とは思えないくらいの外見に驚かされる。この魅力がリゾート施設の成功を裏付けているのかもしれない。



「え? 俺? 特に面白い話なんてないっすよ?」


「嘘こけ。お前の武勇伝、語ることありまくりだろうが。」



 武勇伝ねぇ……? 最近はお家騒動に巻き込まれたり、魔王に勝って和解しかけたところを別の魔王に台無しにされたりした。学院ではヘンなペナルティ背負わされた状態で命がけのチャレンジばっかやらされたり、危うく人類滅亡しかけた上に、ワケワカラン決着で収束した。



「え? 何々? そういうのを聞いてみたいんですジョ!」


「別に面白くはないジョ。」


「お前まで同じ口調になってんじゃねえよ!」



 行く先々でグダグダな終わり方になってばっかり。ホントに無様な勇者だよな。こんなの武勇伝と呼べるんだろうか? ピエールさんの経営話を聞いた方がよっぽど役に立つのではと思う。



「じゃ、じゃあ、学院で発展してなかった飲食業を始めた話を……、」


「それはお前の話ではないだろ。」


「それ、タニシ君の話? 手紙にそういう話が書いてあった様な気がするジョ。」


「え? バレちゃいました?」


「バレバレ。」



 バレちゃったか。しょうがないなぁ。一応、関わってはいたので、語ってもいいかなと思ったんだが。タニシと手紙のやりとりをしていたとは思わなかった。……ちょっと待て。ファルはなんでそれを知ってるんだ? 途中から参戦したクセに! 誰か話したのか? ミヤコ辺りだろうか? ヤツならばあり得る。



「コイツは悪名高い学院の学長を倒したんだ。つい最近の話だ。」


「凄いジョ!? 物凄い魔法学校の、物凄い学長を倒したなんて、物凄いんだジョ!?」



 なにやらよう分からんが物凄いということは伝わっているらしい。これだけ連発されると「物凄い」のオーバーフローが発生してしまう。物凄くね。と思いつつ更に火に油を注いでしまった。



「不本意な勝ち方したもんだから、未だに引きずってやがるんだよ。」


「アレは勝ったとは言わないのでは?」


「勝ったから、人類は滅亡してないんだろ。負けたら今頃どうなっていたか。」


「なんだかわからないけど、物凄いスケールの話をしてて、物凄いと思えてきたジョ! さすが勇者さんだジョ!」



 俺の目論みは失敗し、相手の学長もハリキリどころを間違えたため、お陀仏さんと化した。つまりお互いにしくじり、共倒れになったようなもんだ。だがそれがどう伝わったのかは知らんが、ピエールさんにはスケールのデカい話に思えた様だ。どっちもしょうもないしくじりをやらかしてるのにね? 物凄く。



「これなら安心できそうだジョ!」


「何の話ですか? 結果的に人類が滅亡しなかった事に、っすか?」


「それも良かったと思うんですジョ! でも、僕が言いたいのはその事ではないんですジョ!」


「……え?」



 あれれ? 何か雲行きが怪しくなってきたような? コレは何か厄介事に巻き込まれそうな予感がする。大体、サヨちゃんが関わってる時点でそうなると考えるべきだった!



「“牧場家畜行方不明事件”くらいなら簡単に解決してくれそうだジョ! 物凄くそんな感じがしてきたんだジョ!」


「じ、事件!?」



 はい、また巻き込まれました! またしてもロリババアに嵌められました。学院の事件解決の報酬がリゾートでのバカンスなんておかしいと思ったんだよ! また、サヨちゃんの無茶ぶりに振り回される事になろうとは……。物凄く遺憾である!

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