奇妙な同窓会

 昨年母校である県立高校の同窓会があった。


 十年毎に開催されるが、俺はアラフィフと呼ばれる年齢を迎えた今まで一度も出席したことない。


 大学は県外に行ったし、就職してから単身赴任が多く、同級生との交友はほとんどなかったので、同窓会と言われてもピンと来なかったのが理由だ。


 その後、クラスの集まりとか、同じ部活のグループとか、同じ小学校出身だとか、小規模限定的な同窓会が多数行われ、俺にも誘いが来た。


 同窓会の幹事が主宰でずっと欠席の俺を呼ぼうとなったらしい。男女合わせて十五人。


 正直気は進まなかったが、小学校から高校までずっと一緒のクラスだった同級生女子(と呼べる年齢でもないが)二人から熱心に誘われたので参加することにした。


 会場は幹事の自宅。

 外まで出迎えてくれてのは俺を誘った女子二人。


「◯◯くん!私、わかる?」

 ナミが駆け寄ってくる。


「ナミちゃんだろ?わかるよ」

 彼女は学年のアイドルだった子だ。


「◯◯くん、久しぶり」

 もう一人はリョウコ。昔から背が高い美人さんだったな。


 懐かしさが溢れ出る。


 中へ案内され、これまた懐かしい顔ぶれとの再会、互いの近況や思い出話、この場にいない面々の現状などで大いに盛り上がる。


 そんな時、ふとある女子のことを思い出した。


 小学校の時、やたらと俺にちょっかいかけてきてたやつ。


 イズミだ。


 いつもいつもむかつくことをしてきた。


 学校帰りの買い食いを先生にチクられたり。


 仲良し女子と遊んでたら冷やかされた挙句、あちこちに言いふらされたり。


「また下手くそなマンガ描いてる?」と薄ら笑いを浮かべて言ってきたり。


 今でも腹立つぞ。


 むかつくことにイズミは今思うとかなりの美少女だったと容姿も思い出す。

 しかし私にとっては腹立つブスだ。


「ナミちゃん、イズミっていただろ?」


「え?誰?」

 覚えてないようだ。


「リョウコ、イズミを覚えてる?」


「誰?知らないけど」


 次に幹事のアオノに訊いてみた。


 彼は小さな会社を経営していて、小学校から高校まで同級生全員の消息を把握している。興信所も真っ青なスーパー幹事だ。


「アオノくん、イズミってやついただろ?やつは今どうしてる?」


「イズミ……え?誰?」

 アオノは怪訝な顔になった。


「ええっと、わりと背が高くて……、紙とボールペンある?」

 似顔絵を描いていく。 


「わぁ◯◯くん、相変わらず絵が上手いねぇ」

 ナミが感心したように言う。


「◯◯くぅん、その子が好きだったのかなぁ?」

 リョウコがニヤニヤしながら訊いてくる。


「違う!逆だよ、逆。こいつには酷い目に遭わされてばかりだったよ」  


 似顔絵が完成する。


「まぁ!可愛い子」


「見覚えないねぇ」


 イズミはおとなしい性格ではなかったし、割と目立っていたと思う。


 それなのに全員が知らないと言う。


「イズミって珍しい名前だよね……覚えてないよ」


「途中で転校したのかなぁ」


「全然知らんぞ」


 出身小学校は四クラス、百二十六人。


 転校で多少の流動はあるが、六年も一緒に過ごせば全員が顔見知りである。


 転校して去っていった子のことも皆覚えている。


 それなのに誰も覚えてない?!


 俺は混乱する。


 なぜ俺だけが覚えている?


 イマジナリーフレンド?


 人の記憶って思ってる以上に改竄や補正、補完がかかってる。

 それは何度か経験したのでよく知っている。

 脳ってやつはコンピューターとは違うのだ。


 時期を間違えて覚えていたり、参加メンバーを混同していたり。


 だが俺の記憶違いだとして、ここまでリアルな記憶が『無かった』ってことがあるのだろうか。


 そのうち会はお開きになり、俺は迎えに来た妻の車に乗り込む。釈然としないまま。


 後日、ナミから電話が来た。


『お疲れ様。元気してる?

 あのね、この前の飲み会の後、リョウコと話してるうちに思い出したことがあるから一応教えておくね。

 ◯◯くんって高校の時、彼女いたかな?

 いなかった?

 そうなんだ。

 あのね。

 二年の頃だったかな?

 女子バレー部の中でね、◯◯くんの噂を聞いたことあるんだ。

 ◯◯くんには彼女がいるって。名前はイズミ。

 あの頃、私ちょっと◯◯くんのことが好きだったんだ。

 わぁ恥ずかしい!

 でも時効だよね?

 だから気になってた。

 ◯◯くんやるなぁ。

 他校の女子と付き合ってるんだって思ったけど。

 不思議よね。

 また飲もうよ。

 じゃあね!』




 イズミ。


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