勇者、(本当の意味で)世界を救う
※『俺が通ってた高校は魔境だった』のスピンオフ短編です。
とある星のとある大陸にある王国。
「勇者召喚の儀、全ての準備が整いましてございます」
宮廷魔術師筆頭が王に告げる。
「魔王の侵攻で国土の半分が失われた。もう猶予はない。私は娘や臣民を犠牲とする決して許されない召喚儀式を成した悪王として、後世で語られるだろう」
「お父様……」
「すまぬ。エリーネ。お前を贄として捧げる私を恨むがよい」
「この身は生まれた時より王国に捧げています」
「そう言ってくれるのか。すまぬ」
やがて数百人の生贄、その魂を使って空間に穴を開けて、異なる世界より一人の青年を召喚する。
「成功です!」
「こ、ここは……」
まず国王の謝罪。そして語られる魔王の脅威。
「異界の勇者よ、この世界を救ってほしい」
「わかりました!勇者としてこの世界を救うお手伝いをしましょう」
「それ先にこっちをお願いしてもいいかな?」
突如響く声。
いつの間にか大広間には異形の人物が立っていた。
見た目は美しい少女だ。
しかし彼女の髪は淡く光り、背中には肌の白さとは対照的な黒い羽。
「魔族か!」
騎士たちが剣を構え、魔術師たちが魔法の準備動作に入り、彼女を取り囲む。
「魔族?ああ君たちが争ってる生命体のこと?違うよ。話の邪魔されたくないから、ちょっと大人しくしてね」
彼女の背中から生えてる羽根から光球が複数出現すると、騎士たちは動けなくなり、魔法は無力化される。
「ずっと観察してたけど凄いね。極小のワームホールを発生させて、それを異次元へと繋ぐ技術。
しかも任意の座標にだ。人の持つエネルギーだけで成してしまうローコスト。とんだオーバーテクノロジーだよ」
「何者だ!」
「言ってわかるかなぁ?君たちの文明に先史文明が極めた天文学は伝わってないだろう?まあいいや。僕はね、ここから数百光年離れた恒星系のね、第四惑星から来たのさ」
「それって」
勇者だけが理解出来たようである。
「でね、困ったことに思念ネットワーク型生命体の侵略を受けてるんだよ。僕らの星が属する銀河、その三分の一が呑み込まれた」
勇者以外、国王をはじめ誰も理解が及ばない。
「思念ネットワーク型生命体ってのは、実体をとうに捨ててる。大抵の生物が持つDNAを介して自我を保ち、星に住む全ての生命体を神経ニューロン扱いして取り込むんだよ。彼らを突き動かしてるのは『増殖せよ』って本能、それだけ。話し合いも何も、コミュニケーションは一切取れない」
少女は中空に立体映像を展開する。
「わかるかな?この赤いエリアが、僕たちが属する銀河。これを含む星団がほぼ奴らの支配圏になってる。もう打つ手なしなんだよ。あらゆることを試したさ。でもダメだった。恒星を使った超新星爆弾さえも奴には効果無かった」
立体映像の中心に一際大きな光が輝く。
「退避が間に合わなかった多くの星の何千億、いやもっと多くの生命がγ線で死に絶えた。無駄に犠牲を増やしただけだったんだ」
勇者はそれを聞いて顔を蒼くする。
「僕は恒点観測ドローンとして全宇宙に何千億とばら撒かれたものの一つ。この惑星の観測を何億年も続けてきたけど、君たちの使ったその技術と召喚勇者だっけ?君の力であれを駆逐してほしい」
「バカなことを言うな!」
王が激昂した。
「あれ?君はさっき『世界を救ってくれ』と言ってたじゃないか。世界とはこの惑星を含むこの銀河だけじゃないよ?ワームホールを駆使しても到達どころか観測さえ出来ないこの宇宙全体が世界だろう?それにね、あれはあと数万年もすればこの星を含む銀河にも到達する予測結果が出てる。支配した星の生命体にはテレポート出来る種族もいるから、もっと早まるかもしれない」
少女は微笑む。
「量子通信で母星に報告したよ。僕は素晴らしい幸運に巡り会えた。こんな低文明の惑星で奴らを滅ぼす手段を手に入れることができたんだからね」
召喚された勇者、そして王国の人民をコアとして利用した兵器が作られ、多くの銀河を侵食していた思念ネットワーク型生命体は異次元へと飛ばされた。
確かに世界は救われた。
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