短編オムニバス
はるゆめ
幽閉された公爵令嬢にTS転生したおっさん
女の身体に生まれ変わって気がついたこと。
股間が寂しい。
あるべきものが無いってのは落ち着かないんだぜ。
何を言ってるかって?
俺は日本で普通のリーマンやってたおっさんだが、気がついたらアレシア・ヒランジェルって名前の公爵令嬢になってたんだ。
超絶美少女だ。神の造形コンテストがあれば文句なしの優勝を狙える。
うん。
俺もわけわからん。
しかもこの娘さん、高い塔に絶賛幽閉中だ。
アレシアの記憶によると、彼女の父親であるヒランジェル公爵は王家への謀反を企てたとかで一族郎党みな処刑された。
しかもそれ冤罪。
対立する貴族家どもの共謀、その神輿となった王太子に嵌められたわけだ。その背後には王太子の婚約者となった男爵令嬢の存在もある。
で、このアレシア嬢がなぜ幽閉という形で生かされてるかっていうと、何でもこの子は膨大な魔力ゲートを内包してるからだってよ。歴史上類を見ない規模のものらしい。
この国の人間の一部は魔法を使える。その魔法ってのは、どこかの異次元から体内の魔法ゲートを通じて魔力を引っ張ってきて発動するもの。
魔法で起こしたい事象はその概念を知って(識って)いれば、再現可能ってことだなんだな。
例えば火の魔法。暖炉やろうそく、焚き火を知っていればそれと同じものを魔法で出せる。
しかし火炎放射器とか恒星のプロミネンスを知らなけりゃ、ものすごい火炎なんて魔法でも出せないってわけ。
大きな威力のある魔法にはそれに見合った魔力が必要になる。巨大な魔力ゲートを持つアレシア嬢にも使い道があるってことで、ここに閉じ込められてる
生かされてるもうひとつの理由。
この子は元々王太子の許嫁、つまり将来の王妃だったんだが、彗星の如く現れ、王太子と恋に落ちた男爵令嬢の出現によって、婚約は一方的に破棄された。
男爵令嬢の嘆願もあっての助命らしいが、たまにこの塔までやってきてアレシアに向かって、ある時は皮肉、ある時は罵詈雑言を投げつける。
成り上がり系女子って怖いよな。
「おーい、聞こえてる?」
俺達がいるのは白い空間だ。
向かいにはアレシア嬢。
二人とも身体は半透明っていうか、ここって精神世界みたいなもんだろう。
俺がいくら話しかけても、アレシア嬢は座り込み俯いて何も反応してくれない。
時には刺激してみる。
「アレシアちゃん、おっぱい揉んじゃうよ?」
それでも反応はない。
アレシア嬢は規格外の魔力ゲートを持っていても、ロクな魔法が使えない。
そりゃそうだ。
例えばだが、火薬もない世界で生まれ育って爆発って現象を見たことないこの子に爆裂魔法は使えない。
火山の噴火を見たことあるなら話は別だろうけど。
お嬢様育ちのアレシア嬢、魔法を具現化するイメージとなるあらゆる現象をほば見たことないわけで。箱入り娘だしなぁ。
戦争で多くの兵が戦い、その光景をイメージすれば殺戮魔法なんてのもできるだろうと、戦場に連れてこられたものの、この子、血を見て失神してしまった。
だから奴らの期待する戦術級魔法なんて夢の夢なわけだ。
どうしたもんかと議論中。
「アレシアさんよ、俺はあんたが気の毒に思うからさ、やつらに仕返ししたいと思うけど、いいよな?」
相変わらず返事はない。
ないけど、勝手ながら俺は猛烈に腹が立ったのでやらせてもらう。
この子さ、まだ十四歳なんだぜ?
いきなり濡れ衣で愛する両親を始め身内は処刑された挙句、ここに閉じ込められ、兵器として扱われようとしてる。地球の歴史見ても支配者や権力者ってろくでなしが多いからな。
「アレシアちゃーん、俺やっちゃうからね?」
魔法の使い方は目覚めてすぐ理解した。魔力ゲートから魔力を召喚、それを固定すべくイメージする。
まずサーモセンサーと監視カメラをイメージ。
王城の中をあちこち見て回る。
いたいた。
おおぅ、王太子と男爵令嬢は男女の営み真っ最中だ。
こいつらには長く苦しんでもらおうか。
デーモンコアをイメージ。
ポチッとな。
チェレンコフ光が行為中のお二人さんに照射される。
生き地獄へ招待してくれる青い光。
王太子と男爵令嬢は倒れた。
これから色々な症状が出るだろう。
何の治療法もないし、そもそも原因すらわからんだろうよ。苦しみながらあの世へ行け。
次はっと。
ヒランジェル公爵家を嵌めてくれた貴族達。
監視カメラで見る。
最初の敵対公爵家にはマイクロブラックホールをプレゼントしよう。時間はコンマ五秒で消滅するようにして。
直径2mmの球体、しかし重力は地球と同じ。
すげぇ。
公爵家の屋敷が一瞬で圧壊して消え去った。
本人達は何が起こったかもわからないうちに消滅したが……これはいかん。
見せしめにならんじゃないか。
次の伯爵家は即死しないようにするか。
人喰いバクテリアってのがあるんだなーこれが。
伯爵家の皆さんの体内へ出現させる。
体の内部が食われていくんだ、地獄の苦しみを味わってもらうぜ。
淡々とこなすよ。
戦闘ヘリに搭載されている機関砲で蹂躙したり(富士総合火力演習で見たぜ)、破傷風菌に感染させたり(震える舌って映画は怖かったなぁ)、強力なγ線を浴びせたり、陰謀に加担したやつらを片っ端から。
魔法すげぇ!
アレシア嬢の呪いとして騒いでる奴ら。ザマァ見ろだ。
精神世界のアレシアから少しだけ感情の動きが伝わる。
その時、外で物音がした。
なんだ?
扉が開けられる。
見張りの兵士が倒れている。
「ご無事ですか?アレシア嬢」
輝く絹糸のような金髪、沖縄の海みたいな碧眼、ほぉ〜ものすごい男前が現れたもんだ。
第二王子、美男子なんて言葉じゃ全然物足りない美形だぜ。
「あなたを救い出す機会を待ってました。今、王城は混乱しています。さぁ私とともに」
キュンッ。
な、なんだ!?
この身体の奥の方から湧き上がる情動は?
精神世界でアレシア嬢に確認を取る。
これは君の感情かと。
だがアレシア嬢は真っ白に燃え尽きた灰のように、微動だにしない。
これは俺がこの第二王子にときめいたってこと?
マジか。
俺は同性愛者だったのか?
ちゃうやろとは思うが……。身体に精神が同調してる?
……いや、これはアレシアちゃんの感情だ。やっと人間らしくなってきたかな。
第二王子にお姫様抱っこされる。
この人に抱かれたい……そんな感情が俺を支配していく。
あぁ……これが恋に落ちるってことか。
抗えない感情の奔流に俺は飲み込まれた。
後日。俺の魔法で粛正されまくった敵対派閥第一王子派は勢いを失い、第二王子が王位をすんなり継承。
俺、いや王妃となったアレシアは国の改革を進める彼と幸せな生活を送るのであった。
あーもちろん、救出された後、目の前にいるアレシア嬢を鼓舞して心を取り戻す働きかけが功を奏したので、俺は精神世界の居候として眺めるだけの存在になったよ。
時間はかかったけどな!
アレシア嬢、それはもう素敵な笑顔で俺に「ありがとうございます」って。
あ、うん、俺はアレシアに恋をしてたのかもしれない。
俺はそれを見届けて永い眠りについた。
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