勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん

マッキーイトイト

プロローグ&チュートリアル的な山と谷

あいつが気になって!仕方がない! (1〜2) <魔>

第1話

 剣と魔法のファンタジー世界に転生して早18年。

 おっさんから美少女になった私は、悩みに悩んでいた。




(ああ……あいつ、いま何やってるんだろうなぁ……)




 我ながら若干きもいが、あいつのことが気になって仕方がない。

 まあ、私の唯一の友達にして幼馴染だった男だ。さもありなん。


 だからおかしな話ではない。ないったらないのだ。



 あいつ。アルは勇者となった。

 聖剣を抜き、聖なる力で魔を払う勇者。


 対して私は魔女と呼ばれた。

 魔の術を操り、魔を以って魔を打ち滅ぼす魔女。



 クソみたいな世界の片隅のクソみたいな時代錯誤村に生まれた私たちは、昔から似ても似つかない存在だった。

 それなのに、根っからの陽の存在であるあいつは陰の存在である私を構い倒して日の光を浴びせまくった。


 戸惑いながらも嫌ではなかったのだが、もし私が吸血鬼だったら多分死んでたんじゃないか。

 ともあれ、あいつがいなければ私はずっと暗闇の中で暮らしていたのだろう。




 そう。暗闇の中で。


 村があった王国には、差別が蔓延っている。

 今では多少マシらしいが、特に、魔物と同じ力を振るう魔術には強い忌避感があって、昔はそれを使う存在は魔物と同列だと見做されることも多かったという。


 そして私たちの村は時代に取り残されたクソ田舎だったので現在進行形で……いや、過去進行形?で排魔主義な村だった。


 私はアホだったので有り余る魔術の才能を、転生チートだ!と思う存分に振るった結果、バチクソに迫害されることになったのだ。ほんとアホだね。

 まぁ色んなことがあった末に私は村はずれの暗い座敷牢みたいな場所に幽閉されていたのだが、あいつはしょっちゅう私のとこに来ては勝手に鍵を開けて外に連れ出したもんだった。


 懐かしい思い出だ。辛いことも多かったけど、この時期は割と楽しかった。

 でも、そんな日々も長くは続くことはなかった。


 あいつの親は行商人。この村で結婚して10年も居着いていたが、ついに村を離れることになって。

 あの時7歳だったあいつは、それはそれは駄々を捏ねたらしいがそんな子供の要望が通るわけもなく。



 私の前から、あいつはいなくなることになった。


 私の世界は、再び暗闇に覆われた。




 次に会ったのは、その7年後。

 その間のことは……はっきりいって思い出したくもない。


 私はただ、どうにでもなれと無気力でいて、最悪のタイミングを見逃した。


 結果だけ言えば、村は滅んだ。

 敵がやってきて、みんなを殺して、私が敵を殺した。


 言葉にすれば、それだけ。


 あとに残ったのは生ける屍の地獄。

 私はその地獄の中でそのまま死ぬつもりだったのに……あいつはそこから私を引っ張り出した。

 また、日の当たるところへ。



 ……ほんと、なんなんだろうな。

 あいつはあの時、弱っちいただの冒険者でまだ勇者じゃなかったっていうのに。

 もしも隣にいられたら。自然にそう思うようになって。


 だけど私は暗く薄汚れていて、あいつが眩しすぎて……。



 それからしばらくは一緒にいたけど、時間を重ねるごとに、これじゃ駄目だという気持ちが強くなった。


 現実として、あの時の私は魔物のような扱いだったから。

 王国のギルドから調査依頼を出され、場合によっては討伐対象だった、穢らわしい化け物。


 あいつは結構頑張って冒険者として認められ始めていたというのに、私なんかが近くにいたせいで周囲から嫌がらせも受けていると知ってしまった。


 最初は報復も考えた。

 でもそんなことしたらあいつの冒険者人生に深すぎる傷が付いてしまう。


 だから私は、あいつの元を離れようと決意をした。

 あいつは一度たりとも自分から私を頼ったりはしなかった。だからあいつに私の力は必要ない。

 それに、私のような罪深い存在があいつの隣にいるのは相応しくないと、そう思ったから。


 といっても、永遠に離れると決断したわけじゃない。

 本当はその方が良いのだろうと思いつつも……諦めきれなかった。


 それならば。


 地位と名声。消えない罪も悪評も、全部覆い隠せるほどの大きな実績。

 それを、なんとしてでも手に入れなければならないと考えた。

 力だけではダメなんだ。



 私は一人王国を離れ、隣国の帝国へと向かった。

 

 この世界の高ランク冒険者の地位は世界基準。

 

 だったら私は。

 完全なる実力主義の帝国ギルドで、最速で、最短で成り上がってみせる。


 あいつの隣に立つために。

 あいつのような、立派な冒険者と一緒にいるために。









 そしたらなんかいつの間にかくっそえらい立場になってた。


 チートって怖いね。流石は実力主義の国。


 というか!

 ただの冒険者だったはずなのに色々あって引き抜かれて急に帝国魔術院特別顧問とかいうわけわからんポストにぶち込まれるとか一体何が起こったのかほんと意味わかんないんですけど!!


 毎日毎日研究書類に埋もれながら術式開発して、才能いっぱいの弟子ちゃんをしばき倒す日々が始まるって、あの時には1ミリも想像してなかったんですが!?

 というか冒険者なのに冒険は!?


 とにかく、くっっっっっそ忙しい。

 休みがない。おやすみ、どこ? ここ?

 なんで? なんでこんなことになってるの??


 たまに手が空いた時なんかも、何故かタイミングを見計らったかのように皇帝がお邪魔しにくる。

 なんで国のトップが用もなくこんなとこほっつき歩いてるんだよマジで邪魔だから帰ってくれ!!




 でも権力者を邪険にできない悲しい男、いや、元男。それが私。悲しいね……。


 ていうかだいぶ実績積んで私のこと気軽に馬鹿にできるやつなんかほとんどいないだろうし、もう仕事辞めてあいつのとこ行ってもいいんじゃないの?

 あ、だめですかそうですか……。




 ああ……あいつ、いま何やってるんだろうなぁ……。





・・・





「で、貴様は今何をしているのだ」


 私の研究室で皇帝様がおひとり様ティータイムをしているよ。皇帝って暇なのかな?

 ちなみにティーセットは私が出したよ。この人は注文はしてこないけど変なの出すと不快な顔を隠さないから一応厳選してるよ。めんどくさいね。

 ちなみに皇帝様は乙女ゲーにでも出てきそうな金髪イケメンだよ。実年齢は40近いからクソ若作りだね。いやまあ皇帝にしては若すぎなんだけど。


 いや、ていうかせめて護衛連れてこいや。

 私がいたら護衛の意味ないけど、会話が持たんのじゃ。


 護衛は護衛中に喋ったりしない?

 知らんそんなの、雰囲気とか空気の問題じゃ。




「……見守り使い魔くん2号の改良中、です」

「なんだそれは。というか1号もあるのか」

「1号は壊れて機能不全になったので」

「ふぅん」



 そう、実はあいつと別れる際に、こっそりと使い魔をつけて影からずっと観察していた。……秘密だぞ。


 これは文字通り影の中に仕込んであって、かなりのレベルの隠蔽がされているので高ランクな上級冒険者にもまず気付かれることはない。


 あいつってば私から見たら相当クソザコだったので、もしも何かあった時に介入できるよう、四六時中見守ってあげていたのだ。他意はない。


 まぁ別れた時に最初あいつが焦って私を探す姿を見るのはすごく心が痛かったけど……なんか自分で思ってた以上に大事に思われてたんだなぁと知ってちょっと嬉しかったね。

 でも流石に何も無しにすぐは戻れねぇじゃん……ってなって涙を呑んでそれを見てたんだけど……それから気持ちを切り替えたのか立派に冒険者やってて一安心。


 その後のあいつの冒険はハラハラすることも多かったものの、介入を余儀なくされるような命の危機は無かったから良かった……まぁちょっと怖かったことはあるけど。

 正直、思わず使い魔経由で手を出しそうになったことも何度かあったりはした。でもあいつの冒険を台無しにするわけにもいかないしな……よく我慢できたよ私。


 あとは、ちょくちょくあいつの日常を眺めてたりとか。これは、ただただすごく楽しかった。

 一人で取る食事を眺めながらこっちもご飯食べてたりすると、一緒に食卓を囲んでるみたいな錯覚をしちゃったり。


 なんか、前世でそういう動画が流行ってたのもわかる気がする。めっちゃ落ち着くよね。

 依頼の合間に休んで出かけてる映像なんかも、ボケっと見守ってると、なんかこう、一緒にお出かけしてるみたいな感じがしてとても良い。



 ま、現実の私はクソほど忙しくて遊んでられないけどな!

 いいだろ別に思考分割して現実逃避してても……!!


 たまにちょっとそっちの思考が侵食してきて顔が変にニヤけてしまったときとかもあったりしたけど気にしない。

 なんか近くの弟子がドン引いてた気がするけど、知るかそんなの!




 ……あぁ、そういえばあいつには女っ気がないようだ。特に重要なことではないのだが。


 知り合いもほぼ男だし、まぁ私もほとんど男友達みたいなもんだったからな。

 女が近寄ると嬉しそうにしつつもちょっとめんどくさそうにしてるし? 私の時はそんなことなかったのに。

 別に女に興味がないというわけではなさそうだけど、普段は同性といた方が居心地がいいってことだろうか。


 うん。じゃあ、だとしたら、そうだな、うん。


 あいつの隣にいるなら同性の雰囲気を出しつつ美少女でもある私がやはり一番なのでは? そうなんじゃね?


 あーやっぱ離れるべきじゃなかったかもしれないなぁ、色々あったとはいえあの時ちょっと弱気になりすぎてたわ。

 思えばあいつも一緒にいて楽しそうにしてた気がするし結局お互い居心地のいい関係ってのが最高じゃん?


 一生一緒にいるならそういうのが一番ってよくいうしどうだろいやぁまいったなぁうへへ……。



「気持ち悪いぞ」

「……」



 気を緩めていたら皇帝様から唐突にシンプルな罵倒を喰らった。


 いや、大丈夫だ、私は美少女。

 前世は大した顔面ではなかったが今世は超絶美少女顔面、表情筋があまり仕事しないタイプのクール系美少女だ。


 弟子も言っていたじゃないか。黙ってジッとしてたらミステリアスな美少女にしか見えないって。



 ……あれ? これってもしかして悪口か?


 いや……気のせいということにしとこう……。

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