暫しの休暇ーーー
「実はさ、暫く店を休もうと思うんだ」
雅也が口を開いた。
「どこか旅行でも行かれるんですか?」
雅也に視線を向け志乃舞が聞く。
「ああ。遠い、遠い所にね」
「いつまでですか?」
「4カ月くらいは帰れないと思う」
「そうですか…」
志乃舞は少し戸惑った様子を浮べていた。
「やっぱり、志乃舞にだけは本当の事を言っておいた
ほうがいいな」
「え」
「俺さ、実は…トランスジェンダーなんだ」
「はい」
あれ? なんか、反応が薄いな…。
「あれ、もしかして知ってた?」
「はい、何となく…そうじゃないかなと…」
「俺さ、ずっと考えてきたんだ…」
「はい」
「でも、やっと決心がついた。俺、性転換手術を受けようと思う」
「え…。それは、女になるということですか?」
「まあ…。それに、手術してもすぐには退院できなくて術後のケアも
含めても3~4カ月はかかるらしいから」
「そうですか」
「その間、この店を志乃舞に任せてもいいかな」
「篠宮さんには?」
「黙ってて欲しい。武人には長いリフレッシュ休暇をとって、
旅行に行ったとでも言っといて…」
「わかりました」
「麻美と透子には?」
「できれば黙っていて欲しいけど…。それは、志乃舞に任せるよ」
「必ず、戻ってきてくださいね店長」
「わかった」
「この店は…店長の店ですから」
「ありがとう」
「後のことは心配しないでください。店長が戻るまで店は守って
いきますから」
「ああ。志乃舞、頼りにしてる」
「篠宮さんのウエディングリングはどうしましょうか?」
「ああ、それは俺が責任を持って仕上げて武人に送るから
大丈夫だよ」
「わかりました。それじゃ、お気をつけて」
「ああ…」
そして、雅也は店を出て行く―――。
その後、志乃舞が雅也を追うようにして店の外に出る。
視線の先には雅也の背中が映っていた。
(店長、がんばってください……。いってらっしゃい…)
きっと、それが男としての最後の別れになる。
今度会う時は、きっと女になってるから。
行ってきます―――――………。
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