僕と武人の距離はあと何センチ?

『はい』とも『うん』とも返答せずに僕は武人と距離をあけて

少し後ろから歩いて行った。

そこにいるのか、いないのか、まるで空気のような存在。

僕はずっと空気のような存在感のなさを続けてきた。

それが楽だったから。そうやって人との関わりを断ってきた。

だけど、武人といる時間だけは違った。見た目は存在感がなくても、

僕は心の中で『ここにいるんだよ』『気づいてよ』『君を見てるんだよ』

何度も何度も言葉にできない声で僕の存在を君に気づいて欲しかった。



カラオケボックスに来るのは初めてだった。


女の子達は自分を主張してストレスをぶつけるように思いっきり歌っていた。


僕はただ座っているだけで、歌はよくわからなかった。


だけど、武人と一緒にいる時間が好きだった。


『次、雅也、歌うか?』

『いえ…僕は…』


せっかく武人がしゃべりかけてくれたのに、また僕はつまらない答えしか

返せない。会話が続かない……。


武人は僕をつまらない男の子だと思っただろう……。


『じゃ、あたし、歌いまーす』


僕の隣にいた女の子が立ち上がり曲が流れると同時に前に出て行った。


その開いた僕の隣に武人が座ってきた……。


武人は女の子が歌う曲に合わせて愛の手を入れていた。


武人が女の子にモテる理由がなんとなくわかった気がした。


武人の肩が僕の肩に当たる。


その場所だけがなぜか熱く、僕は心までドキドキしていた。


僕が武人を見ると優しい笑みで微笑む武人の顔が僕の目に映った―――。



それから少しずつ……  少しずつ、少しずつ……


時間をかけて、ゆっくりと……  ゆっくりと、ゆっくりと……


         僕と武人の距離は近づいていった――――…………。

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