第10話 ②
「燈、一緒に食べない?」
「食べない」
「なんで?今日くらいいいじゃん」
「……」
「燈、こっち」
「ん」
「待って!まだ……」
「由良!私と食べよっ!」
俺が離れたのを見た例の女が由良に駆け寄ってきた。俺の横を通る時に由良には見せれない鬼のように恐ろしい顔で睨んできたが無視した。毎度その顔するけど、よく由良に見られないなと切り替えの速さに感心する。
俺を由良と関わらせたくないなら、四六時中ベッタリとくっついて手綱をガッツリ握っとけとイラつくが深呼吸して怒りを鎮めた。
ストレス社会な昨今はアンガーマネジメントが出来る人が生き残るとテレビで言っていた。今からその練習をしておくのも無駄にはならないだろと良い方に考える。これしきのことでイラついていては生きてはいけないと自分に何度も何度も何度も何度も言い聞かせた。
それはさておき、今日も今日とて話しかけてくる由良に頭を悩ませていると見かねた及川が呼んでくれた。
俺が断っているのを確認してから助け舟を出してくれる及川の要らぬ優しさにちょっとだけイラつきながら及川達がいる方へと歩き出した。俺の拒絶の意志を確認しなくても由良が声掛けた時点で呼んでくれていいのにと思うが、助けられてる身でそんなこと言えないと口を閉じる。
ゲームの話で盛り上がるシマとミハルに相槌を打ったり所々会話に参加する及川を近くから拝借した椅子に座ってボーッと眺める。
及川は優しすぎる。
少しくらい強引に盾になってくれてもいいのにと言えない文句を脳内でぐちぐちと言っていると突然、唇に何かが当たった。
「え?何?」
「これ、美味い。食ってみ?絶対、燈が好きなヤツ」
「……あ」
俺と同じ甘党の及川の言葉を一ミリも疑いもせずに口を開ける。すぐに口に放り込まれた甘いチョコに思わず顔が緩む。
もう一個と強請るように口をまた開いて見せれば、伝わったらしくまたくれた。
それに満足しているとどこかからか視線を感じ、モゴモゴと咀嚼しながらそっちを見るとミハルとシマが何とも言えない微妙な表情をし生暖かい目で俺達を見ていた。
なんでそんな顔してるのかわからずに素直に二人に聞いてみた。
「なんだよ?食べたかったん?」
「いや……仲良いな、と……」
「ね!」
「別に、普通だけど」
「えぇ!めっちゃいいじゃん!!だって、さっきのあーんじゃん!」
「あーん?」
「そう!あーん!」
言われて気づいた。
由良も頻繁にしていたから癖で及川相手でもやってしまったけど、もしかして、男同士でこういうことは普通じゃないのかと二人の態度で気づかされた。今更恥ずかしくなったのとなんで変だと教えてくれなかったのだと八つ当たりで及川を睨むけどあいも変わらずスンとした澄まし顔をして無視された。
全く反省を感じない態度に文句の一つでも言ってやると口を開くも及川に先をこされてしまった。
「いや、だって、燈は手が汚れるの嫌がるじゃん。ポテチも箸で食うくらいだし」
「……確かに」
「だから、手に渡すより直接入れた方が燈の手が汚れなくて済むと思って」
「一理ある……」
「すぐに納得すんじゃん。チョロくない?大丈夫?」
「でも、仲良いことはいいじゃん!」
「まぁ、そうね。……二人がいいなら、いっか」
「そうそう!幸せならそれでいいのです!」
「はぁ?どゆこと?」
「……」
シマとミハルが勝手に納得して話を終わらせたことが意味がわからず聞くも、「皆まで言わなくてもオレ達はわかってっから」と訳がわからない返しをされ余計に混乱して助けを求めて及川を見るも首を横に振って、
「大丈夫」
と全然大丈夫ばない返事をされて腹が立った。俺だけ仲間外れにされたことが不服でその後も何度も文句を言うも結局、誰からも何も話されることはなかった。解せぬ。
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