第12話

「カレン、クヴァル国王が君に会いたいそうだ。いきなりですまないが、準備をしてもらえるか?」

「えええぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?国王様が私に!?!?!?」


ユークから突然に告げられたその言葉を受け、カレンはそれまでの人生で一番と言ってもいいほどに大きな声を上げた。


「ど、どうして国王様が私なんかに!?!?も、もしかして私何か悪いことをしてしまったのでしょうか!?国王様のご機嫌を損ねてしまうようなことをやってしまったのでしょうか!?そ、それならどうしよう……。どう謝ったら許してもらえるんだろう……」

「お、落ち着くんだカレン…。心配はいらない、国王様は機嫌を損ねて君を呼んだわけではない」

「そ、そうなのですか…?」


それまで本気でそう考えて体を震わせていたカレンだったものの、ユークの言葉を聞いてやや落ち着いたのか、少し冷静さを取り戻している様子だった。


「そ、それじゃあ一体どうして…?」

「別に難しい話じゃないだろう。ここは王宮なんだから、国王様とて会ってみたいと思った人にはすぐに会いたいものだろう」

「そ、それはそうなのですけれど…。私のような何でもない人間に国王様がわざわざ会ってくださるなんて、とても信じられなくって…」


カレンはユークにそう言葉を返しながら、少し動揺したような表情を浮かべて見せる。

それもそのはず、ここに来てからのカレンは驚きの連続ばかりで、めまぐるしく変化する現実を受け入れるほどの時間もあまりなく、今回の話もその最中に持ち込まれたものであるのだから。


「大丈夫だよ。国王様は心穏やかな方で、決して気難しい人じゃない。最初は緊張するかもしれないが、話してみれば君だってすぐに仲良くなれると思うよ?」


心配そうな様子のカレンの事を安心させるように、優しい口調でユークはそう言葉をかける。

今は緊張している様子のカレンではあるものの、国王の事を形容するその言葉が大げさでも何でもないという事を、この後カレンはすぐに知ることとなるのだった。


――――


コンコンコン

「失礼します、国王様」

「おぉ、ユークか。入ってくれ」


カレンはユークの隣に立ち、彼とともに部屋の中から聞こえてくる声をその耳にとらえた。

その声は非常におおらかで気品あふれるように感じ取れ、同じ上流階級であるはずの伯爵のそれとはかなり違ったような印象を感じさせる。


「よく来たよく来た。その隣にいるのが…?」

「はい、私にとってかわいい甥っ子にあたります、カレンです」

「は、はじめまして!!!」


ユークから紹介されたカレンだったものの、あからさまに緊張した様子を隠せない。

そんな様子を見た二人は互いにくすくすと愛らしそうな笑みを浮かべ、部屋の中は非常に和やかな空気に包まれる。


「まぁまぁ、そう緊張しなくても大丈夫だとも。別に国王と言っても、そんなたいしたものじゃない。気楽に話をしてくれたまえ」


国王クヴァルはどこかうれしそうな表情を見せながら、自分に向き合う席に2人の事を手招きする。

2人は国王から促されるままに机の前まで足を進め、そのまま用意された席に腰を下ろした。


「まずカレン、君には感謝をしなければいけないな。本当にありがとう」

「え??ど、どういうことですか…?私、感謝されるような事なんて何も…」


クヴァルからかけられた言葉に、カレンは意外そうな表情を浮かべる。

そんなカレンに対し、クヴァルは自身の思いを率直に語り始めた。


「何の説明もなく、こちらに連れてくる形となってしまった。はるばるの移動は大変だったことだろう。しかし、君はこうして無事にここにたどり着いてくれた。私はそれが本当にうれしいのだよ」

「クヴァル様……」

「おっとカレン、それについては私も同じ思いだよ??国王様だけじゃないからね??」

「分かってますよ叔父様、ありがとうございます」

「おいユーク、今私とカレンが話をしているんだ。横やりを入れるんじゃない」

「まぁまぁ構わないではありませんか。せっかくこうして3人で話をすることができるのですから」


どこかうれしそうな表情を見せるカレンの雰囲気に、二人は一段とその表情をほころばせる。

それはまるで、二人の父親が可愛い娘を取り合っているようにも感じとれた。


「さて、それじゃあ少し本題に入ることとしようか。他でもない、君もよく知るグレムリー伯爵に関しての事だが…」


国王が真剣な表情でその名前を口にしたと同時に、二人もまたその表情を真剣名も二にする。

そしてその後、国王の口から伯爵の今後に関する重要な話が語られ始めるのだった…。

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