旦那様に勝手にがっかりされて隣国に追放された結果、なぜか死ぬほど溺愛されています
大舟
第1話
きらびやかな装飾が施された部屋の中で、二人の男女が楽しそうに会話を行っている
。
一人はこの屋敷の長であるグレムリー伯爵、そしてもう一人はそんな伯爵が最愛の人物だと慕うエレナである。
「エレナ、僕は君の事が好きで好きで仕方がないんだ…。僕はどうしてもこの思いを我慢することができない…」
「だめですよ伯爵様、そのような言葉を私にかけられては…。私は伯爵様の使用人で、それ以上の関係になってはいけません…。ましてや、伯爵様には将来を約束された婚約者様がいらっしゃるではありませんか…」
そう、実はグレムリー伯爵はすでにカレンという女性との婚約を内定させており、もうすぐ記念の式典を開くことが予定されているような非常に大切な時期にあった。
しかし今伯爵が見せている雰囲気は、とても将来を約束した婚約者を持つ人間の見せるそれではなかった。
「こんなところをカレン様に知られたら、きっと心に傷を負われますよ?確かカレン様はまだ17歳になったばかりでしたよね?もしかしたらそれを苦にされてご病気になられてしまうことだって…」
「そんなもの、今の僕にはとても考えられない…!僕には君しか見えていないのだから…!」
「まぁ…♪」
エレナの制止も聞かず、グレムリーはどこまでもエレナの方にばかり傾倒していく様子を見せる。
しかしエレナもエレナであり、彼女はどこかわざと伯爵の事を誘惑するかのような雰囲気を全身に醸し出し、伯爵が自分に気持ちを向けているという事実にまんざらでもないような表情を浮かべていた。
「どうしてだろうか…。君とカレンは同い年だというのに、僕の目には君は女性としての魅力はカレンとはかなりかけ離れているように見える…。これは僕の心自体が君にときめいてしまっているという事なんじゃ…」
「伯爵様、そこまでおっしゃられるなら私に約束していただけませんか?」
「約束?なにをだい?僕にできることなら何でも言ってごらん」
エレナはグレムリーからのその言葉を待ってましたと言わんばかりにうれしそうな笑みを浮かべて見せると、彼に甘えるように柔らかな口調でこう言葉を発した。
「なら、カレンの事を捨ててほしいです…。本当に私の事を愛していて、そこに嘘がないとおっしゃるのでしたら、カレンとの関係をもう終わりにしてほしいのです。伯爵様の隣には、カレンではなくこの私をお選びになって頂きたいのです…!」
「エレナ…!」
グレムリーはエレナからの言葉を聞き、脳がとろけるような感覚をその全身で感じ取る。
そしてその快楽に導かれるように、伯爵はエレナに対してある一つの約束を行うのであった。
――――
「えっと、この作業が終わったら次は…」
一方、すでにグレムリーとの婚約が決まったカレンは、彼にふさわしい人物なるべく必死に仕事を覚えていた。
とはいっても、もちろん貴族としての政治的なことはグレムリーが行うこととなるため、彼女はあくまでそのサポートを行う役回り。
しかしそれでも、一日でも早くグレムリーのためになるならと、カレンは寝る間も惜しんで貴族家としてのしきたりや立ち回りのマナーなどを頭に叩き込み、少しでもグレムリーの役に立てるべく懸命に勉強を行っていた。
「(なんでもない私の事を婚約者として選んでもらったんだから、ちょっとでも伯爵様にふさわしい相手にならないと…!)」
カレンは生まれが特別というわけでは決してなく、ごくごく普通の生まれの少女であった。
彼女の家は一般的に言うところの本屋さんであり、偶然その家の前をグレムリーが通りかかったところでカレンの存在が目に留まり、二人はそのまま結ばれることとなった。
言ってみれば、カレンの容姿をグレムリーが一方的に気に入り、彼女をそのまま自身の婚約者としてこの屋敷まで連れてきたという事になる。
だからこそカレンはグレムリーにふさわしい相手となるべく毎日必死に奮闘しており、彼から一二とも早く女性として認められることを夢に見ていた。
…しかし当然、そのような形で伯爵の婚約者となった彼女の事を見る周囲の目は、当然に冷たいものがあり…。
「あらまあ、あんなに張り切っちゃって。大した才能もないくせに」
「ちょっと、やめなさいって。本当の事を言ったら可哀そうでしょう?」
「どうせ伯爵様はつなぎ程度にしか思っていないのでしょうに、無駄な夢なんか持っちゃって…」
わざとらしくカレンに聞こえるほどの声の大きさでそう言葉を発する、伯爵家の使用人たち。
カレンはそれらの言葉が耳に届くたび、心の中で自分にこう言葉を言い聞かせていた。
「(大丈夫…。伯爵様は絶対に私の事を愛してくれるもの…。私の事を助けてくれるもの…。あなたたちの言う通りにはならないもの…!)」
周囲の人々のいう事が現実となるのか、それともカレンの健気な思いが伯爵に届くのか。
それがはっきりと判明することになるのは、その次の日の事だった。
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