第三章 未来のために

第51話 王太子の憂鬱

「馬鹿者どもが……」

 王は王国内に、手出し無用と通達をしていた。なのに、目先の欲で手を出した。


 王国内の他の地が不作でも、あの地だけは豊作。

 嵐で、各領で被害が出ても、あそこだけは被害が出ない。

 そのため、目端の利く者達は、あの地に習いに行っていた。


 礼を尽くせば、共に発展をしましょうと教えてくれる。

 無論それを持ち帰り、自分だけの利を得ようとしたものは潰された。


 そう、知識は与える。

 だが物は、自身で研究をして行けと。


 子どもが生まれ、次の治世のため、なかなかに強か。

 連中の男達が死に絶えていたのには驚いたが、生き残った彼は別格のようだ。


 王はそう考えた。

 だが、王太子は、霧霞 悠人が怖かった。

 王や宰相が頭を下げて、一介の領主に頭を下げて教えを請う。

 その考えと教えは、王国の常識をあっさりと覆す。


 幼き頃から、教育を受けてきた、努力をした。

 先人の教え、それを元に発展型の治世を考える。


 だが、それすら無駄だと、一蹴された事がある。

 分からない、理解できない。

 それは、いつしか畏怖へと変わる。


 そして不幸なのは、王が思ったよりも早く崩御をしたこと。


 悠人をおもしろく思っていなかった、能なしの貴族達に担ぎ上げられることになる。


 そうそれは、王国の破滅への第一歩となる。


「そうだな。父上がどうであれ、今は私が王だ。彼の領に与えた自治権を無効として、すべてを王国へと帰属させよう。あそこの技術は一領主が持つには危険だ」


 悠人に言わせば、いち王国が持つには危険なのだが。



「ふむ。本気か?」

 書状を持って来た使者に問う。




 使者は敵側の一人、ノービジブル=インコンペテンス伯爵。

 新王の前に出て、ほらを吹いてやって来た。


「王様わたくしに、おまかせください。きゃつの心胆からしめ、泣きながら献上するように説得、いいえ、教育を施し理解をさせましょう」

 彼は知らなかった、悠人について知っているのは、他国からふらっと来た暴力集団。

 王国の混乱の中で、成り上がった無法者。


 前王のひいきがあり、侯爵にまで成り上がったと……


 意気揚々とやって来て、彼の領へ入った瞬間から、その異様さに気がつく。

 道はすべて舗装され、排水設備と、崩落しそうな山肌はすべて土魔法で固められている。


 農民達は全員が小綺麗で和やか。


 馬車ではなく、魔導馬車が走り回り、大きな蛇のような物までが走っていた。


 宿も、安く小綺麗、町中にはスラムがない。

 そして糞尿の匂いもしない。


 孤児達の窃盗団も……


「盗賊がいませんでしたな」

 護衛についてきた兵団長。

 実は、元近衛の一人。


 王が崩御の後、一方的に職を辞すことにされた。

 そう、旧王側の人間はすべて冷遇。


 そんな人間は、悠人の元へと集まってきていた。

 彼は普通の人間ではない、神の使者である。

 知っているものは知っているが、目の曇ったものは信じない。


 だが今は、そっちが多数派。



 悠人の奇妙な迫力に、ノービジブル=インコンペテンス伯爵の体が、ガクガクと震える。

 となりに控える黒髪の女も、自身のことを馬鹿にするような目で見てくる。

「まあ、こんな話は飲めん。あの王太子がこんなことを言うとはなぁ」

 ぺいっと書状を投げ返す。


「なっ、王をないがしろにする行為」

「その王から、まあ前王からご意見無用の権利を貰っている。新王でもそれを簡単に覆すのはできん話だ」

「なっ、それは王国に逆らうと」

「違う。王国の決まりに逆らったのが現王。この事は引っくり返しちゃいけないのだよ」

「話にならん」

 そう言い残し、足早に部屋を後にする。


 体は震え、足はガクガク。

 もう少しいると、気を失うところだった。

 

 その日のうちに、領都を出立。

 王都へと帰った。


「どうも面倒になったな。プワーナ王国とインペリティア王国へも使者を送っておこう」

 だがこの二国でも、権力交代が起こっていた。


「はっ。前王の時に、我が国のために尽くしたと」

「知らんな。綿花栽培が禁止されて、我が国は困窮をしておる。そのなんとかという奴にお前のせいだと請求をしろ。ごねるならセコンディーナ王国も巻き込め」


 この国と隣りのインペリティア王国は、大抵政変が起こり王位が変わる。

 側近者達は、毒殺されることが多い。


 そのため話が途切れて、条約などが通じない。

 だから、ファースティナ王国がやっていたように、ごねてきたら力ずくで押さえ込むのが正解だった。


 さて、セコンディーナ王国の王都では、現王が激怒。

「王国の決まりに逆らったのが私だと? 国の方針を決めるのは私だ。懲罰だ兵をそろえて、首謀者である侯爵を連れてこい」


 そう叫んで、兵を挙げてしまった。


 その頃、プワーナ王国とインペリティア王国から使者がやって来る。


「王国としてはそんな事は知らん。懲罰部隊をだすところだから、請求をするなら、貴国も兵をだせ」


 なんと言う奇妙な采配が行われた。


 そうして、三国で一万を超える兵がやって来た。

 情報はあったので、領境にもう守備隊は配置しておいた。


「兵達よ、領主に対する懲罰軍だ。道を空けろ」

「やだね」

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