第37話 なにか
「ぬっ、ご神木がザワついている」
昼になって、急にご神木に変化が起こる。
だがそれがどんな意味を持つのか、私には分からなかった。
まだ、巫女となり二百年、まだまだ未熟。精進をせねば……
そうそれは、俺達が精霊国に入った頃。
俺は、途中で空気感が変わったのを感じていた。
「この国自体が、聖域になっているな」
「ええ、空気感が気持ちいいわ」
八重と二人、そんなのんきなことを言っていた。
だがその時、ご神木。
つまり世界樹は焦っていた。
何かが来た。
神気を纏い、光を放つ。
ご挨拶に向かうべきだろうか……
周囲では、ドリアード達が命令を待っている。
その頃、この世界の天上界では、じじいもどきが焦っていた。
あの男、今なら分かる。
思っていたより、ずっと高位の存在じゃった。
そして、傍らの娘…… なんであんな存在が。
ひょっとして、わし、罰せられるのではないか?
そんな事を考え、ストレスで、寿命が数京年縮むじじいだった。
「何処まで行っても森だな」
「ああ、つまらん」
竜司達はぼやいていたが、普段ここには霧が立ちこめた結界内。
周りの景色に変化はなく、本来招かれない者達が迷う森を普通に歩いて行く。
本当なら立ち塞がる木々が、俺たちの前で、森が勝手に開き導かれていく。
多分その光景を見れば、精霊族、森の民は驚いただろうが、まだもめていた。
その辺りから、魔人国にある神木も妙な挙動を始める。
今は、陰と陽という感じで一対の神木。
本来は、両方とも聖なる樹であった。
それがいつの頃からか、よどみ。良くないものを吐き出す樹となった。
その影響を受けて、森の民が魔人族へと変化をした。
そうすべては、じじいの所為。
時空をゆがめ、魂を盗み世界を渡らせる、その所為で歪みよどんだしわ寄せ。
禁忌は、意味があって禁忌と呼ばれる。
精霊国の白き民と、魔人国の黒き民。
その歴史は、かなり長くなったいた。
獣人から素直さが消えるくらい。
途中、精霊国には村もなく、ひたすら持って来た食料を食い潰す。
誰かが言った。
「全くこの森、果物すらねえな」
その瞬間、なぜか木が生え、実が成る。
そんな早送りのような非常識を皆が見つめる。
「これってリンゴかな」
見た感じ、シナノゴールドのような黄色いリンゴ。
ナシとは肌の具合が違う。
種類的には同じバラ科だが、ナシは呼吸のための穴が潰され斑点模様ができる。
リンゴは、ワックス成分があるため磨けばテカテカになる。
沙織は、しっかりしているようでおまぬけ。
いきなりちぎると、磨いて食べ始める。
「委員長…… あー大丈夫そうか?」
「あーうん。りんごだよ。甘くて美味しい」
皆ドン引きである。
どう見たって、怪しい光景。
それをものともせず、手を伸ばし囓る。
きっと食の歴史は、彼女のような人間が作ってきたのだろう。
食べ始めるのを見て、周囲でまた木々が生え始める。
ただまあ、何でもありで、広葉樹ぽい樹に葡萄はなるし、イチゴのようなものまで。
ただ、安全なのは分かったので、皆大はしゃぎとなる。
その様子を見て安堵するご神木の精霊。
うむうむと頷く。
そんな事は知らない森の民達。
ご神木がザワついているのを、ただ不安に思っていた。
「長老、これは一体?」
「さあな、千年近く生きておるが、こんな事は初めてじゃ。おおお、森が騒いでおる、何か恐ろしいことでも起こる前触れかぁ」
そんな事を言ってしまった。
当然、村人達はそれに備えることになる。
神木の思いと真逆。
そんな所に近付く皆。
そして、出会ってしまう。
「貴様ら何者だ、どうやってここへ来た」
一斉に、周りを囲まれて弓を向けられる。
「単なる旅行者だ、敵意はない」
両手を挙げながら、武神が宣言をする。
だが周囲のザワザワ、神木の喜びが民を不安にさせる。
「あっ」
誰かが、引き絞っていた矢を放ってしまう。
その瞬間、精霊が姿を現すが、実体がないため矢は突き抜ける。
「だあ、あぶねえ」
悠人は、スパッと掴み損ねる。
「あれ?」
胸に突き刺さった矢。
その瞬間、場に緊張が広がる。
空気は、粘りを持ち重くなる。
質量が変化したようにずっしりと。
常春のような気温感で、喜びを表していた周囲から、温度が抜けるように気温が下がる。
木々のざわめき、その種類が変わった。
「悠人」
「悠人くん」
やばっという感じで精霊がちかよってくるが、八重の怒りに触れはじけ飛んでしまう。
周囲にはドリアード達が現れ、民に向かって手を広げる。
そう、悠人達を守るように。
そして、巫女であるバルブロ=イサベレ=アマンダ=アルヴィドソンに神木からの悲しみが流れ込んでくる。
「これは、一体何をしたの?」
あわてて走り出す。
村人達は困惑をしていた。
彼らを守るドリアード達。
めったに姿を見せないが、ご神木の使いということは知っている。
皆が長老を見る。
重い空気、矢が刺さり普通に立っている男。
守るドリアード達。
散っていたが、再び現れた精霊。
走ってきた巫女。
「その人達を攻撃してはだめ」
そう叫んで、矢の刺さった男を見ると、呆然とする。
武神達は、巫女の格好を見て言い始める。
「痴女だ……」
彼女は、樹と繋がるために、なるべく薄着。
見せたいわけではないが、臼衣の巫女装束で透けて見える。
「痴女じゃない……」
彼女は、赤くなって叫ぶ。
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