第19話 王の意思

「今回、ご足労を願ったのは、王国の力となってほしいからじゃ」


 謁見の間ではなく、会議室に俺達は通される。


「ファースティナ王国は、毎年のようにやって来る。今年はそなた達のおかげで退けることができた…… 生活の基盤は整える。年に一度力を貸してくれ」

 そう言って、王は頭を下げる。


 周囲で、側近達があわてる。

 だが、王は頭を上げない。

「あーはい。生活さえ保証いただけるなら」

 そんな事を勝手に言いだしたのは、稲葉 沙織いなば さおり

「ちょっと待て、一年に一度とはいえ人を殺すんだぞ」


「でも、不安定な生活なら、安定した方が」

 そう、実に女性らしい意見。


 生物的特徴。

 安定した生活は、有史以前からの特性。

 男はもっと攻撃的で、目立とうとする。


 これは仕方が無い、遺伝子のいたずら。

 だがまあ、簡単にはまとまらない、成り行きを見守っていると、話を振られる。

「悠人はどうなんだ?」

「霧霞くんはどう思うの?」 


「とりあえず、やれるかやってみたら。男女平等、まさか自分はできないとか言わないよな」

「私は出来るわよ」

 そう八重が突っ込んでくる。


「それは……」

 周囲の女の子も及び腰。


「まあそうだな、生活の保障もどんな物かは分からんし、駄目なら俺らは、消える。それで良いか王様」

「うむ。よろしく頼む」

 周囲の側近は不満そうだが、話は決まった。



「なにも、あそこまで譲渡しなくとも」

「では明日、仕合でもして見ろ」

 文句を言っていたのは、近衛部隊長エーレンフリート=グレーザー伯爵。

 若くして、近衛部隊長の抜擢された、新進気鋭の男。

 父親は、侯爵家。


 長男はいるため、次男の彼は、実力で上がった来た。



 翌朝、近衛達が殺気だって集合。

 俺達はゆっくり寝られると思っていたが、申し訳ありませんと、いきなり部屋のドアが開いた。


 まだ、信用ができないため雑魚寝だ。

 幾多の野営のおかげで苦情はない。

 だが、八重に吸い取られた。

 コイツは周りに人が居ても、遠慮しない。


 とにかく、眠い。それは、ペアの居ない奴らにとって地獄。

 目を開ければ現物。目を閉じれば水音。

 悶々とした一晩を過ごした。


 これにより、少し男女の仲が近くなる。



「あいつらふぬけた態度を……」

 幾人かの兵士がこちらを睨む。


 こいつらは近衛、戦争は見ていない。

「それでは、すまないが模擬戦を行う。一対一で行う」

 そう宣告された模擬戦闘は、すぐに一対多へと変化をする。


 そして見ていた女の子からも手が上がりだし、近衛達は全員がぶっ倒れて立ち上がれなくなった。


「知らなかったけれど、私達って強い?」

 そんな言葉が出るくらい、戦闘力に差があった。


「くっ。こんなっ」

 なんとか木刀を杖にして、立ち上がろうとする兵達だが、払われた足が痛くて力が入らなくて何ともならない。


 今回魔法は封印、剣のみだった。

 だが、俺達にすると遅くて、一振りの間に十回は素振りができる。


 つまり五人や六人が来ても問題は無い。


「こんなにも……」

「魔法も拝見をしましょうか?」

「あっああ」



 そうして始まった魔法披露だが、弱い女子でも王国の魔術師を圧倒する。


 大きさ、連射速度。

 すべてか、規格違い。


 並列の攻撃になると、向こうはできても二個か三個。

 こちらは最低でも十個以上。


 もうね、泣きそうになりながら、魔力を振り絞る連中がかわいそうで見ていられなかった。



「これは……」

 宰相と、近衛部隊長エーレンフリート=グレーザー伯爵は、膝をつき呆然とする。


 王は報告を読み、半分信じていた。

 そのため……


「わかったか? わしが頭を下げた理由が?」

「えっええ」


 だが心の内は、そんな馬鹿な、そんな言葉がひたすら繰り返された。


 そして、城でもう一泊。


 響く水音。

 不思議なことに、水音が増えた。

 俺と違い、一人上手だと思う。


 したこと無い奴は知らんが、女の子でも性欲はあるらしい。


 帰りには、微妙な雰囲気が流れる。


 そして、武神の元へ稲葉 沙織いなば さおりが忍び込む。


「武神くん、あなた男の人が好きなの?」

「いや?」

「じゃあ、その…… 付き合ってくれない? それとも、中古はいや?」

 そう聞かれて、武神は悩み始める。


 相手は知っている。

 その後、落ち込んでいた彼女も。


「そうだな…… いやかも」

「そう、なら…… はっ?」

 委員長愕然。ある程度自分には自信があった。

 そう、ドニ-=クーベルによって作られた自信。

 褒められ持ち上げられた。


「どうしたってアイツのことが、記憶にある。付き合うとなれば思いだしてしまう。心が割り切れなくてな……」

「あっ、えっいえ、彼は死んじゃったし……」

 オロオロして、委員長の目が泳ぐ。


「だけど、そういう関係だったんだろう?」

 その表情は哀れみ。

 そう、女子に聞いた見え見えの逆ハニートラップ。

 あんなのに引っかかるなら、将来ホストにハマって地獄よね。

 そんな本音を聞いている。


 まあ、話を聞けば、脳筋の武神でも理解できる。


「それはそうだけど、浄化だって、お風呂だって……」

「いや、そう言うことじゃないんだ……」

 結局委員長は、お試しセフレまでランクを下げた。


 好きになってもらえれば、きっと変わってくる。

 そう、それこそが作られた虚像。

 いつ、プライドの元。その実績が嘘だったのだと、気が付くのか……


 そう、俺達は強化されている。

「おく、駄目。気が狂う」

 なぜミリー達が、離すものかと必死になっていたのかを理解する。

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