第18話 王の葛藤

「なに、ファースティナ王国の勇者達じゃと?」

「ええ、その力、本物です。仲を違えたらしく躊躇なく数千を消し去りました。それに、彼ら、矢で頭を射貫かれても死にません」

 死なないのは、おそらく一人だけ。

 ひょっとすると、もう一人。


「なんと、それは古の邪法、体への魂魄固定では無いのか?」

「死人でも無いようです」

「ふうむ」


 それが本当なら、強力な味方。

 しかし、ファースティナ王国にバレると、相当面倒なことになる。



 「あー疲れた」

 国境から、町へと帰ってきた。


 戦争より、道中の方が疲れた。

「早くお風呂に入りたい」

 女子達が叫ぶ。


 大きめの浴槽を一気に浄化。


 魔法で湯を溜めて、温度を安定させるためだけに、薪を数本くべる。


 道中に捕まえた獲物をさばき、肉にして積み上げる。


 待ち構えていた者達が、順に料理をしていく。


 順に入る途中で、風呂の湯を浄化。

 湯をたす。

 不思議なことに、途中で俺が入っていっても、女子達が俺に対して、きゃーとも言わなくなった。

 そして、最初はもじもじしていたが、最近は見せつけるようになってきた。


 俺は男として、みられていないのかもしれない。


 女の子達の心は、それと違っていた。

 ああ、途中で増えた、ミリー達の影響もある。

 彼女達の常識では、子をなすことが人生の目的。


「殿方に見られて喜ばれて、何が問題なんです? 私たちより立派な形で羨ましいです」


 そう、興味を持ち、見られて触られるのは誉れだとか。


 そして、八重。

 事あるごとに、のろけ、俺とのエッチ時する様子を言いふらしていた。


「そう、感じてくると、女は全身が敏感になって……」

 女子が八重の前に正座をして聞いている。


「優しく耳で愛を囁き、そのままはむっと耳を甘噛み。その後、舌先は、首筋へ。その間にも手は背中を優しく滑ると、お尻の割れ目へと……」


 そう知らない間に、性教育というか、えっちい話がされていた。

 あの快楽が、その快楽が、あっほれ。


 そんな感じで。

 おかげで、八重に頼まれて、湯を足しに行った時。

 皆の視線が俺に向き、なぜか太ももをもじもじさせる子が増えた。


 まあそんな感じで、自分の特技というか、料理とか掃除とか皆が張り切って行い始めた。


 まあ、仲間達の雰囲気も良い感じだ。


 そう思っていたが、ある日、現地で女の子を拾ったグループが姿を消した。

 普通だったはずだが、本当に突然。


 俺達が消息を追うと、どうやら町を出たようだ。

 八重と女の子達は、放っとけばいいのよと冷たい感じだ。


 まあ力が戻った現在、探そうと思えば探せる。


 そんな日が過ぎ、俺達に通知が来た。

「王都へ来てくれまいかと、おっしゃられておる」

 そうして俺達は、王都へ向けて出発をする。


 まるで大名行列。

 回りを兵が囲み、きっちり守られて。


 野営でも、食い物まで供される。

 ものすごくまずいが、手直しをしてなんとか食う。


 当番が、貴族の坊ちゃんだとひどいものだ、普段どんな物を食っているのか知りたい。


 ああ、すぐに知れた。

 途中は町に泊まることもある。

 上宿とされ、貴族とかも泊まる宿。


 半腐りの肉を、香辛料やハーブで誤魔化し、焼いた物とか。

 野菜の類いはほとんど無く、煮たものと焼いたもの、そして固いパンを使い、皿代わりにして、手掴み。


「これはひどいな、ほとんどの細菌は熱により死んでいても、腐り、産生された物質は残っている」

 セレウス菌などは、熱でも死なずに嘔吐などの原因となる。

 病原性大腸菌やウェルシュ菌、ボツリヌス菌。

 有名どころは多数いる。


 選択的に浄化をして、匂いの原因物質も抜く。

 まあ熟成は進み、タンパク質が分解され、 グルタミン酸などのアミノ酸が増加をして、うま味などは増え柔らかい。


 塩を足し、味を調える。

「どうかな?」

「あっすごーい」

 俺達のテーブルで、食事なはずなのに妖しい光が煌めき、軽く火を通し直し、周囲には美味そうな匂いが広がる。


 その後の騒ぎ、ひたすら美味いと言っていた声が聞こえたのか、オッサン達が集まってくる。


 多分どこぞの貴族だろう。


 俺達の回りに居る、護衛の兵達が前に出る。


「サンダース伯爵様ですね。我々は王命により護衛を行っております。申し訳ありませんが、お下がりください」

「ぬっ、わしは、その美味そうな匂いがする鳥を、そう一口頂ければよいのだ」

「伯爵様、申し訳ありません」

 そう言うと、がっくりと落ち込んでしまう。


「一口だけなら良いぞ」

 そう言って、トレンチャーパン皿に乗せて渡す。


「おお、すまない」

 一口囓り、騒ぎ出す。


「おお…… これは、なんといううま味。肉は柔らかくジューシー。噛み締めると、うま味と塩味が口の中で、そうだ、音楽を奏でる。それほど絶妙にマッチしている。それに古くなった匂いや雑味が無い。同じシェフのはずなのにどうして」

「そうだ。古くなった匂いや味は、食っては駄目なんだ。俺達はそれに気がつき、浄化をした。下手に食うと病気になるからな」


 そんな説明をすると、オッサンどころか、周りの兵達まで驚く。


「おい、これはどう言う事なんだ?」


 聞くと、獲ってすぐは美味くないから、目にウジが湧くくらいまで寝かす。

 ところが、温度管理などできないから腐る。


「適度に、腹の調子もよくなるし……」

 野菜を食わないから、食事にあたると丁度出がよくなるとか……


 皆思った、この世界やべえ……

 ファースティナ王国では、家畜扱いで、ジャガイモばかりだったのが、逆に正解だったようだ。


 サンダース伯爵には、鶏肉に小麦粉をつけ、油で揚げる料理を教えると喜んでくれた。皆は俺の意図に気が付きニヤニヤしていたが。

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