夏休みの海

黒トンボ

夏休みの海

夏休みの夏期講習が終わった後、友人と海に行く事にした。


二人で自転車を走らせ、お気に入りの浜辺に着いた。

唯一街灯のある、海の家のベンチに座り、コンビニで買ったジュースを飲みながら、他愛のない話をして盛り上がっていた。


時刻は夜10時前、昼間は海水浴客で賑わうこの浜辺は、夜になると真っ暗で誰も居ない。近くに民家もないので大声で喋っていても迷惑にならない。だから二人で気楽に話していると


「助けて~」


声がする方を、振り向くと海で女性が溺れていた。


私は、助けなきゃ!そう思い、女性の方へ向かおうとした時、友人に肩を力強く掴まれた。


「待って、落ち着け」


「落ち着けって、人が溺れているんだぞ!助けなきゃ」


そう私が言うと、友人が


「なぁ、なんであの人が見えるんだ?」


「なに言ってッ!!」


この時私もはっと気づいた。

確かに、波の音は聞こえるけど周りは真っ暗で何も見えない。


それなのに、はっきりと溺れている女性だけ見えていた。


「……」


「……」


二人で黙って見合わせていると、助けを呼ぶ女性の声は聞こえなくなっていた。


もう一度、女性の方を向くと、先ほどまで溺れていた女は、足が着かないはずの海の中で不自然に棒立ちし、うらめしそうにこちらをみつめていた。


私は友人と、焦らず落ち着いて、自転車に乗りその場を離れた。


それ以来、その場所には行っていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏休みの海 黒トンボ @niziirotonbo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ