第8話「リリアナ、カイロスの素性を知る」最終話



そんなこんなで カイロス様と共に旅を続けること数日。


昼間襲ってくる悪魔をボコボコにして魔晄炉に詰めて魔石に変え、

時々現れる山賊に魔晄炉を掃除してる時に出た悪魔の溶け残りをかけて改心を促したり、

宿駅でダブルルームしか空いてなくてドキマギしたり、

そんな事を繰り返しているうちに、

ダークレア帝国の帝都に到着しました。


「うわぁ、懐かしい香りがします!

 故郷のダークレアの帝都に帰ってきたのですね!

 旅に出た時は、生きて故郷の土を踏めるとは思っていませんでした!」


カイロス様はふる里に帰って来れたことに歓喜し、馬車から降りると、笑顔で走り回っています。


悪魔に魔力や生気を吸われる事がなくなり、安眠を確保したカイロス様は、顔の血色も良くなり、踊ったり、走ったり、元気に過ごしています。


良い兆候です。


【頼む……殺して……】


すっかりそれしか言わなくなった悪魔が馬車の後方でうめいています。


このあとカイロス様の実家に挨拶に行くんですよね。


他の人には見えないとはいえ、ボロボロの悪魔を連れていきたくはありませんね。


この辺が頃合いでしょう。


私は悪魔を魔晄炉に入れて溶かしてあげました。


悪魔の望み通り殺してあげたので、きっと彼も満足しているでしょう。


魔晄炉から出てきた魔石はヒビが入っていて、茶色く変色していました。


ふむふむ、悪魔をボコボコにしすぎると質の良い魔石は取れないようですね。


あとでメモしておきましょう。


それにしても、大きな街ですがあまり活気がありませんね。


街の人達も何かに怯えているのか、表情がすぐれません。


「また、街の付近にモンスターがでたそうだよ」


「最近多いな」


「郊外の村では、村の近くに瘴気の吹き溜まりができたらしい」


「いやだね、また魔物が増えるよ」


「王太子殿下が定期的に魔物退治をして下さっているから、まだ帝都はなんとかなっているが、地方はどうなっているのやら……」


「冒険者も魔石も足りてないからねぇ……」


街の人達が不安げに話しています。


なるほど、帝都では冒険者と魔石が足りていないのですね。


カイロス様から伺っていましたが、事態は思ったより深刻なようです。


これは冒険者としても、魔石の販売員としても成功するチャンスですね!


今は商売の事より、カイロス様のご実家に挨拶に行くことを考えなくてはいけません。


カイロス様の実家は十中八九お金持ちです。


実家から出てくる時、どうせもうパーティに出ることはないと考えて、普段遣いの動きやすいドレスしか持ち出しませんでした。


旅をしてきたからホコリまみれですし、汗臭いかもしれませんし、こんな格好でカイロス様のご実家に挨拶に行ったら、門前払いされてしまいます!


「カイロス様、ご実家に戻られる前に帝都で一泊しませんか?

 それと買い物もしたいのですが……」


「さぁ、行きましょう!

 僕の実家はすぐそこです!」


カイロス様は有無を言わさず私を馬車に乗せると、手綱を握り馬車を走らせました。


ちゃっと元気になりすぎです!


お風呂が……! 買い物が……!


「旅の途中に宿駅から手紙を出したんです。

 手紙には明日帰ると書いてしまいましたが、予定より一日早く帝都に着いてしまいました」


手紙なんていつの間に書いていたのでしょう?


カイロス様は意外と抜け目がないのかしら?


「ご実家の方を驚かせてはいけませんし、一泊宿屋に泊まってから帰られた方が……」


「いいえ、一日も早く帰宅して、病弱な父を安心させてあげたいのです!」


そういう理由があると、帰宅するのを延期してとは言いづらいですね。


「手紙にはリリアナ様の事もかいたのですよ。

 とても素敵な婚約者を見つけたと、彼女は僕の命の恩人で、優秀なネクロマンサーで錬金術師でもあると」


「手紙に私の事も書いたのですか?」


「ええ、家族にリリアナ様の事を少しでも早く紹介したくて」


気持ちは嬉しいですが、平民で野良のネクロマンサー権錬金術師と旅先で出会って婚約したなんて書いたら、カイロス様のお父様のご病気が悪化しません?


カイロス様のお父様に「息子はやらん!」と怒鳴られるならまだしも、私を見たお父様が私のあまりの貧相さに驚いて卒倒するという展開は避けたいですね。


ご家族にカイロス様との結婚を反対されたら、カイロス様の健康維持には私のサポートが必要なこと、魔石がお金になることをチラつかせて、強引に乗り切りましょう!




◇◇◇◇◇




「見えました!

 あれが僕の実家です!」


「えっ……?!」


カイロス様が指さした方角を見て、私は唖然としました。


「えっだって、あれ……家というよりお城ですよね?」


「お城のような」という比喩表現ではありません。


カイロス様の指さした方向にあるのは、高台にそびえ立つ、荘厳華麗な宮殿なのです。


えっ? 実家がお城ってどういうことでしょう??


住み込みの使用人や騎士としてお城で働いているということでしょうか?


いえ、彼らにだって街に自分の家がある筈です。


「そうですね。

 僕にもお城に見えます」


「ええと……それでは、冗談ではなく本当にカイロス様のご実家はお城なんですか?」


「はい」


「それでは……カイロス様のご身分って……」


確か以前自分には兄二人がいて、長男が優秀な跡継ぎで、次男は変わり者の発明家で、お母様は亡くなられ、お父様は病弱だと言っていたような?


「名乗るのが遅れました。

 僕の名前はカイロス・ダークレア。

 ダークレア帝国の第三皇子です」


カイロス様が実家に帰るまで名字を名乗れないと言った理由がわかりました。


名字=国名なのですから、そう簡単に名乗れませんよね!


「ちょっと待って下さい!

 情報を整理しますから!

 カイロス様が帝国の第三皇子で、悪魔召集体質で、私はそれを救ったネクロマンサー兼錬金術師で、お互いの利害が一致したら婚約して、今まで一緒に旅してきて……」


駄目です!


情報量が多すぎてパンクしそうです!


「あまり深く考えないでください。

 僕にはリリアナ様が必要で、リリアナ様には僕が必要なんです。

 それ以上に大事なことがありますか?」


いえいえ色々ありますよ!


身分のこととか、私が婚約破棄された傷物令嬢なこととか、悪魔は私以外に認識できないからネクロマンサーと言って信用して貰えるのかとか、その他にもいっぱい!


カイロス様が末端の貴族の末っ子か、大きな商会の末っ子なら、上手いこと家族を言いくるめて、カイロス様と結婚しようと思っていましたが。


まさか、彼が帝国の皇子様だったなんて……!


正妻は愚か、愛人になれるかも怪しくなってきました……。


こんなことなら宿駅でカイロス様を押し倒し、彼の子供を宿しておくべきでした。


そうすれば最悪でも彼の愛人にはなれました。


……っ、何を考えているんでしょう私は!


カイロス様とは結婚するまで清い関係でいよう、心の繋がりを大事にしようと、決めた筈なのに。


私は不安から彼の事を疑ってばかりです。


「大丈夫ですよ。

 父も二人の兄も優しい人ですから、きっとリリアナ様のことを気に入ってくれます」


それは可愛い息子や弟には優しいでしょう。


その可愛い末っ子に悪魔祓いの代償として、結婚を迫った浅ましい女を、彼らはどう思うでしょうか?


カイロス様の体質の事を考えると、悪魔祓いが出来る私が殺される事はないでしょうが……。


か、風あたりは冷たそうです。


「カイロス様、やはり一度街に戻ってドレスを買って、宿屋に一泊してからご実家に行きませんか?」


「ですがもう、お城に着いてしまいました」


なんと……!


私がうだうだ考えてる間にも馬車はお城に向かって進んでいた訳ですね。


門番がカイロス様の顔を見て動揺しています。


「第三皇子殿下のご帰還!

 陛下にご報告を……!」


門番の一人が皇帝陛下にカイロス様の帰還を知らせに行ったようです。


あ〜〜これはもう、今からバックレるのは無理そうです。




◇◇◇◇◇





このあと色々あって、私はなんとかカイロス様と結婚しました。


結婚後も、彼に取り憑いた悪魔は私が即座に祓って魔石に変えています。


悪魔に魔力や体力を吸われ華奢だったカイロス様は、悪魔から開放されたら、見違えるくらい逞しくなられました。


私が作った魔石は皇家が買い取り、ダークレア帝国の冒険者や騎士に配られました。


その結果ダークレア帝国の瘴気の吹き溜まり問題も、魔物多すぎ問題もすんなり解決しました。


私はその功績を称えられ、男爵位を授かりました。


その後、由緒ある侯爵家の養女に迎え入れられ、地位と名誉の両方が揃ったタイミングでカイロス様と正式に婚約し、一年後彼と結婚しました。


瘴気と魔物の問題を解決した私は国の英雄。


なので私と第三皇子のカイロス様との結婚は、国中のみんなから祝福されました。


そうそう、彼にはブラコン気味の二人の美形のお兄様がいました。


カイロス様を悪魔から救った私は彼らにとても気に入られ、可愛がってもらっています。


もちろんカイロス様からも溺愛されてます。


イケメンで誠実な皇子様と結婚して、実験は国のお金でし放題。


カイロス様のお陰で実験材料の悪魔にも事欠きませんし、魔石を作れば作るほど褒めてもらえます。


瘴気の吹き溜まりと魔物が減少したことで国民には感謝されまくり。


三職昼寝付き実験し放題の生活を手に入れた私はまさに話が夜の春状態です。










あっ、ちなみにアルバート殿下と聖女のシア様なんですが……。


彼女は悪霊ホイホイ体質のアルバート殿下の傍に張り付いて、彼に引き寄せられる悪霊を浄化していました。


それと並行して、彼女は各地を巡り瘴気の吹き溜まりの浄化をしていたようです。


アルバート殿下は聖女様の傍を離れられないので、当然彼も旅に同行。


瘴気の吹き溜まりは僻地にあります。


なので彼は毒虫が生息し底なし沼が点在する森の奥や、万年雪の積もる高山にも出向かなければならず……。


お荷物のアルバート殿下を連れて、国中を移動しなくてはならないので、聖女様の瘴気の浄化の旅は難航。


お城で蝶よ花よと育てられたアルバート殿下が、そんな過酷な旅に耐えられる筈がなく……。


そんな訳で、アルバート殿下は早々に音を上げたそうです。


国中の僧侶を動員し手分けして瘴気の吹き溜まりを浄化しようにも、今まで瘴気の浄化に使っていた魔石はない。


私がオルフェア王国を出たあと、新たな魔石が作られていないので、オルフェア王国が保有する魔石の数が徐々に減少するのは当然のことですよね。


なので教会に所属している僧侶程度では、魔石なしで瘴気の吹き溜まりを完全に浄化することは出来ないようです。


その結果、オルフェア王国では瘴気の吹き溜まりの数が急増、それに伴い魔物の数が増加、深刻な社会問題と化しているようです。


困り果てたアルバート殿下が私に手紙を送ってきました。


アルバート殿下の手紙には「愛人にしてやるから戻ってこい。お前には悪霊召集体質の俺が必要だろ」と書かれていました。


今の私はオルフェア王国の伯爵令嬢ではなく、ダークレア帝国の第三皇子妃です。


彼はダークレア帝国に喧嘩を売るつもりでしょうか?


私は彼から届いた手紙を破り捨てました。


私との婚約を破棄するとき、

「二度と俺には関わるな!

 城や街で俺を見かけても無視しろ!

 これは命令だ!」

アルバート殿下はこう言いました。


彼の言葉に従って、永久に彼の存在を無視することにしますわ。


でもあまりしつこく手紙を送って来るようなら、国際問題にしてもいいかもしれません。




――終わり――




◇◇◇◇◇◇




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助けた旅人が隣国の第三皇子!? 運命的な出会いからの即日プロポーズ! 婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる! 完結 まほりろ @tukumosawa

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