モンスター名:お行

第52話 姉須戸・トンプソン・伝奇とオーカージェリー


「おや、あんなところにオーカージェリーがいますね」


 Dランクダンジョンを探索していた姉須戸は杖でモンスターがいる方向を指差す。


 ドローンカメラが杖の指す方向にカメラを向けると、軽自動車サイズの黄色いアメーバーがうねうねと蠢いていた。


『うわー、こいつか~』

『でたよ、近接殺し』

『ん? 姉須戸先生、近接殺しってどう言うことですか?』


「はい、このオーカージェリーは剣や槍などの斬刺物理攻撃でダメージを与えると………」


 姉須戸は持っていた杖の持ち手を捻ると、杖は仕込み刀になっており、刀身を表す。


 そして視聴者に実戦で見せるようにオーカージェリーを斬りつけると、斬った傷口からニュルンと二つに別れる。


「こんな風に分裂するんですよね。なので戦うなら鈍器か炎といった属性攻撃がお勧めです。まあ、斬り続ければいずれ死にますが、死ぬまで分裂を続けるので他のメンバーの迷惑になります」


 二体のオーカージェリーは姉須戸から攻撃を受けたことで敵対認識したのか、襲いかかろうとするが足が遅く、姉須戸は簡単に離れて距離を取る。


「オーカージェリーはかなり足が遅いので、対抗策持ってないなら逃げ続けてください。間違っても建物内とか逃げ込まないように! ある程度の隙間があれば通り抜けてきます」


『建物系ダンジョンで出会って、部屋に逃げ込んでドアを締めたらドアの隙間から入り込んだ時は悲鳴がでた』

『よく生きてたな』

『偶然悲鳴を聞いた別のチームが助けてくれた』


 配信視聴者の一人が過去に密室に逃げ込んだ時の出来事を書き込み、他の視聴者から同情される。


「攻撃方法は組み付いて体内に取り込んで酸で溶かしてきます。ウーズの時と同じく組つかれたら火を押し付けてください。火球ファイヤーボール!」


 姉須戸が魔法を唱えると、火の球が生成されてオーカージェリーの方に飛んでいく。


 そして、着弾と同時に爆発して火柱が上がり、二体に分裂したオーカージェリーは焼けて溶けていく。


「オーカージェリーのドロップ品はほぼウーズと一緒です。ただ、オーカージェリーの方がランクが上なので、素材性能も買取価格もウーズより高いです」


 姉須戸は火柱が収まるとドロップ品を回収して配信視聴者に向けて解説する。


「あ、そうそう! オーカージェリーに関しての注意事項ですが、わざと分裂させてもドロップ品は大元の一体分しかでませんので」


『もっと早く知りたかった(限界まで分裂させて試した人)』

『欲張るとよくない例題だな』

『よくないだけに欲がない。なんちって』

『審議拒否!』

『は?』

『スルー』

『????』


 姉須戸がオーカージェリーの分裂を利用したドロップ品増殖は出来ないと伝えると、配信視聴者の一人がギャグを言うが辛辣な反応しか返ってこなかった。


「おっと、今の魔法で別のモンスターを呼び寄せたみたいですね」


 姉須戸は遠くを見つめながら杖を構えた。

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