第30話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアハイシュケとアクリルとアビスビースト


「おや、あれはアハイシュケですね」


 Fランクの森ダンジョンの川沿いを探索する姉須戸は、川岸で寝そべる一匹の馬を見つける。


 寝そべっていた馬はまるで水死体のような青白い肌、海草のような鬣、そして背中の無数のイボからはからは汗のようにドロドロと粘液が吹き出て垂れ流れている。


『陰キャな馬みたいな感じ』

『背中のイボが受け入れられない』

『ダンジョンにいるからモンスターなんだろうな』

『ケルピーと違うの?』


 アハイシュケを見た配信視聴者達は思い思いにコメントを書き込んでいく。


「ケルピーの一種ではあります。陸上では亀のように動きは鈍いですが水中では逆に機敏です」


 姉須戸は離れた場所からアハイシュケについて解説を始める。


「たぶんないと思いますが、間違っても陸にいるアハイシュケに跨がってはいけません。背中のイボから吹き出る粘液は粘着性が強く、皮膚と引き換えにしないと剥がせません」


 姉須戸は配信視聴者達にアハイシュケについて注意事項を伝える。


『姉須戸先生、もしも跨がったらどうなります?』


「アハイシュケに跨がると、溺死させられて肉体を食い荒らされます。あのように」


 姉須戸が指差すと、川岸で寝そべっていたアハイシュケにバスケットボールサイズのカワセミのような鳥が背中にとまる。


 すると、アハイシュケはゆっくりと体を起こして川に入っていく。


 カワセミのような鳥は背中から離れようと必死に翼を羽ばたかせるが、アハイシュケの背中にくっついて飛び立てない。


 そのままアハイシュケは川の中に潜り、カワセミのような鳥は溺れそうになり、水飛沫を上げて羽を激しく動かすが、抵抗空しく水没する。


「因みにあの鳥はアクリルと言う鳥でテイミングモンスターとして人気です。様々な鳴き声で精神に働きかけて、眠りや幻覚をみせて惑わせたりします」


 姉須戸がアハイシュケの背中に捕らわれたカワセミのような鳥の正体を解説する。


 アハイシュケは溺死したアクリルを食べようとすると、川辺近くの草むらに潜んでいた影でできたヒョウのようなモンスターが奪う。


「あれはアザービーストですね。影のような体毛のせいで物陰に潜まれると見えにくくて厄介です。攻撃方法は爪や牙です」


 姉須戸がアザービーストについて解説する。

 力関係はアザービーストの方が上なのか、アハイシュケは水面から顔だけ出して、恨めしそうにアザービーストを睨むだけだった。


「まずはアザービーストから片付けます。魔法の回転鋸マジックパズソー!」


 姉須戸が魔法を唱えると、エネルギー状の回転鋸が生成されて回転しながらアザービーストへと飛んでいく。


 アザービーストは姉須戸が放った攻撃魔法に反応して振り向くが、その頃には魔法の回転鋸はアザービーストの眼下に迫っており、避ける暇もなく切り裂かれていき、霧散化していく。


 アザービーストを倒した姉須戸はアハイシュケに視線を向ける。


 姉須戸と目があったアハイシュケは慌てて水中に逃げようとするが、まだ維持されている魔法の回転鋸が後を追いかけてアハイシュケを両断していく。


『姉須戸先生の回転鋸の魔法おかしくね?』

『当方Eランク魔法系探索者。まずあのサイズと回転力を構築できません』

『ランク詐欺?』


 姉須戸が駆使する魔法を見た配信視聴者達がそんなコメントを書き込んでいる間に姉須戸はドロップ品を回収していく。


「アザービーストのドロップ品で価値があるのは皮です。これで作られたマントなどはカモフラージュ能力が高いです」


 姉須戸はドロップ品であるアザービーストの皮を広げて見せる。


「アハイシュケは粘液を吐き出すイボが価値あります。加工すればかなり強力な粘着アイテムになります。また皮は防水能力が高いです」 


 姉須戸はアザービーストの時と同じように皮を広げて川の水をかけて防水能力を視聴者に伝える。

 

「アクリルのドロップ品は鳴き袋と呼ばれる内蔵です。専門的な加工をすることで、様々な効果を持つ笛になったりします」


 姉須戸は臓器を拾い上げてドローンカメラに見せる。


「さて、探索を続けましょうか」


 ドロップ品の紹介を終えると、姉須戸はダンジョン探索を再開した。

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