第13話 リオンと2人、月明かりの下で
私はものすごく後悔していた。練習ではもちろんリオンとも踊ったことがある。だけど、こうしてドレスを着て踊る最初のダンス、私だってリオンと踊りたかった。
もっともっとはやく準備をして、リオンと踊ってからデビュタントに行けばよかった……!
ううん、昨日の夜にそうしたってよかったのに!
日常のリオンを愛でるのに夢中で、いつもと違うシチュエーションを真っ先にリオンと楽しむことを忘れてしまうなんて、不覚!
眉を下げ、涙目で落ち込むリオンは13歳になっても相変わらず可愛い。
さすがに一緒のベッドでくっついて眠るのはお父様に「そろそろどうかな?」と止められてしまったからやめたけれど、見た目がちょっと成長したって、リオンは弱っちくて、私にいつもべったりな可愛い義弟のまま。
このまま私が、一生そばで守りたい……!
「姉さま、踊ろう?」
「うん!」
リオンに差し出された手を取る。音楽はないけど、気分がとてもよくて、代わりに鼻歌を歌ってみる。
しばらくいい雰囲気に浸りながらそうして踊っていると、リオンがおずおずと口を開く。
「……第二王子殿下と、たくさんお話しした?」
「ミカエル殿下と?そうね、結構お話ししたかも。思ったより気さくないい人だったわ」
王族のことが気になるなんて、リオンは意外とミーハーなのかしら?
そんなところも可愛い!
「ふうん……姉さま、第二王子殿下のこと好きになっちゃった?」
「!!」
違う!これはミーハーじゃない!し、嫉妬だわ!
リオンってば、やきもちを焼いているのね!?
なんてこと!
「いいえ!確かにいい人だったけれど、それだけよ!私はリオン以上に好きになる人なんていないもの!」
「本当……?」
「もちろん、本当よ!私の可愛いリオンは世界一だもの!」
「そっか、えへへ」
嬉しそうに笑うリオンが眩しい。夜なのに、真昼の太陽くらい眩しい!いいえ、太陽だって、この笑顔の輝きに勝てっこないに違いない。
リオンはダンスのためにホールドしていた私の手を控えめに引くと、ぎゅうっと抱き着いてきた。
「わわ!」
思わず少しだけよろけてしまう。前は、難なく抱きとめることができていたのに。
いつの間にかリオンは少し大きくなった。背の高さだって、今は私とそう変わらないけれど、そのうちすぐに私より大きくなるだろう。
だけど、どうか、どうかずっと、弱くて泣き虫な私の可愛いリオンでいてほしい。
ぎゅうっと抱きしめ返してあげると、私の首元にすりすりと頭をこすりつけてくる。リオンは相変わらず甘えん坊で、こうしているといつだっていい匂いがする。
一緒に眠らなくなったせいで、小さなころよりも抱きしめる回数は減ってしまった。
だから、リオンは少し不安になっていたのかもしれない。
「姉さま、僕とずーっと一緒にいてね?」
昔から、何度も聞いた、お決まりの約束。
当然私の答えは決まっている。
「もちろんよ!姉さまは、リオンとずっと一緒にいるわ」
実は、私は知っている。あまりにもリオンが私に甘えていて、すぐ泣いて、弱いままだから、お父様が少し心配していること。
ある夜たまたま目が覚めて、話しているのをこっそり聞いてしまった。
『このままでは、あの子は戻れないかもしれない』
それはリオンの話にほかならなかった。
リオンが立場に見合う人間になったとき、お別れしなくてはいけないと聞かされたあの日から、ずっと望んでいた展開に順調に進んでいると確信して、胸が高鳴った。
お父様は不安がって心配しているのに、喜んでしまってごめんなさい。私、悪い子だよね。
だけど、どうしてもリオンにずっとそばにいてほしいから、私はこれからもリオンをぐずぐずに甘やかして、いつだって手をさし伸ばして、できる限りリオンにダメ人間になってもらおうと思う。
まあ、とはいえ、甘えん坊のリオンは私がそんなに積極的になにかしなくとも、あまり強くならないままで。ただ普通に甘えられて甘やかしてってしているだけになっているような気もするけれど。
そっと手を伸ばして、うるんだ瞳で私をじいっと見つめるリオンを撫でる。
「私の可愛いリオン。何があっても姉さまがリオンを守ってあげるからね」
猫のように目を細めて、気持ちよさそうに私の手にすり寄ってくるリオン。
うん、大丈夫!
この可愛いリオンが急に外見も中身も成長して、強く一人でも生きていける姿なんて到底想像できないもの!
穴だらけと思われた私のおバカで無謀な計画は、おもいのほか順調に進んでいる。
「姉さま、今日は久しぶりに……一緒に眠りたいな」
この可愛いお願いを断る選択しなんて私にはない!
私はお姉さんぶってリオンのサラサラの髪を指で梳く。
「いいわ、久しぶりにおやすみの挨拶もたくさんしてあげるね」
リオンはうずめていた私の肩から顔を上げて、すごく嬉しそうに微笑んだ。
私は知らなかった。
今日、踊っている最中にミカエル殿下が、リオンに思いを馳せる私に見惚れていたこと。
私以外の他のご令嬢やご令息とは、当たり障りのない簡単な会話しかかわしていないこと。
殿下が、話をした全員に名前で呼ぶことを許したわけではないことなんて……。
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