ブラコン令嬢は可愛い義弟をぐずぐずに甘やかしてダメ人間にしようと決めた(※なお、義弟の本性は)

星見うさぎ

第1話 プロローグ:こんなリオンは知らない



「姉さま!良かった、怪我はない?」


 いつものように泣きそうな顔で、私の可愛い義弟、リオンが蹲った私に駆け寄る。


「リオン……?」

「本当にびっくりした!姉さまが死んじゃったらどうしようって」

「リオン」

「もう2度と僕をこんなふうに怖くさせないで?姉さまがいなくなったら僕は生きていけない」

「リオン!」


 

やっと止まったリオンはにこりと微笑み、首をかしげて私を見つめる。

「なあに?フィオナ姉さま」


 なあに、じゃない。

 何って聞きたいのは、どう考えても私の方で……。


 リオンに支えられながら体を起こして、目の前の光景が本当に現実なのか直視する。

 目の前には私を襲おうとした賊の男たち数人がぼろぼろの状態で気を失って倒れ、その男たちが連れていた狼型の大きな魔獣が、血まみれの、見るも無残な状態で転がっている。


 あんな魔獣、私は倒せない。

 男たちだって、手練れで、こんなに人数が居れば相手に出来ない。


 だから……だから、私はもう、ここで死ぬんだと、諦めて……。


「な、にが……何が起こったの……?」


 何が起こったも何も、私はこの目で全部見ていた。リオンがやった。それだけだ。

 でも、だって、そんなはずない。


 だって、リオンは、私の可愛い義弟は、泣き虫で、弱っちくて、学園での魔法の成績もなかなかよくならなくて、すぐにいじめられて、私がいないと何もできなくて──。


 リオンは私の口をついて出た言葉に、一瞬キョトンと不思議そうな顔をした後。何かを思いついたように「そうか、そうだよ」なんて呟いて、すごく嬉しそうにはにかんだ。


「ねえ、姉さま。今、姉さまは僕が助けなきゃ絶対に死んでたよね?」


 どうしてそんなに幸せそうな顔で笑って、そんな話をしているの?


「僕が助けたから、まだ姉さまは生きているけど、そうじゃなかったら死んでたよね?」

「そ、うね、」


 掠れた声でなんとか答えると、リオンはますます笑みを深める。まあ僕がいるから、絶対にそんなことにはならないけど、と呟いて。


「つまり、今からの姉さまは全部僕のものってことでいいよね?」


 これは、誰だろう。

 こんなリオンは、知らない。


 そんな私の気持ちなどお構いなしに、リオンは突然ハッと息を飲み、サッと顔色を真っ青にさせる。


「あ、あ、姉さま、手から血が出てる……」


 途端に眉根を下げて、瞳一杯にウルウルと涙が溜まっていく。見慣れた、泣き虫なリオンの顔。

 この顔が、好きだった。私がいなければ生きていけないんじゃないかとすら思える、弱い弱いリオン。


「ごめんね、姉さま、傷つけてごめんね……」


 悲しそうに何度もごめんねと繰り返しながら、リオンは私のほんの少し擦りむいた手のひらを掬い上げ、自分の口元を寄せた。

 そして、あろうことかその傷をぺろりと舌で舐めあげる。


「ひゃっ……!?」


 思わず声を上げた瞬間、何かが私の周りを光って、パチンと音を立ててはじけて消えた。


「これで大丈夫!もう2度と、誰にも姉さまには触れさせないから。……全部、全部、やっと僕のものだ」



 ……今の、光。今の魔法は、まさか。


「姉さま、約束してくれたよね。──ずっと、僕と一緒にいてくれるって」



 私は今まで、リオンのことをほんの少ししか知らなかったのかもしれない。

 湧きあがってくる得体の知らない感覚に、体がぶるぶる震えるのを、止めることができない。



「姉さま、大好きだよ」


 リオンはそんな私の反応に嬉しそうに目を細めて、うっとりと愛を囁いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る