58話 彼女を誘え
「オリビエ、それじゃ今夜必ず俺の店に来てくれよな。カウンターに予約席として一応2席確保しておく。出来ればアデリーナ嬢と2人で来てくれ」
教室の前で、マックスが念押ししてくる。
「ええ、分かってるわ。アデリーナ様を見つけて、お誘いしてなるべく一緒に来て貰えるように頼んでみるから。少しでも売り上げに貢献してあげるわよ……って、何? 変な顔して」
マックスは苦虫をかみつぶしたかのような顔で見つめている。
「あのなぁ、変な顔だけよけいだよ。俺がアデリーナ嬢を誘ってくれと言ってるのは売り上げの為だと思っているのか?」
「あら? 違うの?」
すると「はぁ~」と大袈裟にため息をつくマックス。そして次に真剣な顔つきに変わった。
「いいか、オリビエ。俺がアデリーナ嬢を誘ってくれと言ってるのは彼女が強いからだ」
「……は? 強いから? 何故?」
首を傾げるオリビエ。
「おいおい、本当にそれで才女で通っているオリビエなのか? いいか? 初めて俺の店に来た時、質の悪い男に引っかけられそうになっただろう?」
「あ、そう言えばそんなことがあったわね」
ここ最近、周辺の環境がガラリと変わった為、そんな些細な出来事はすっかり忘れ去っていたのだ。
「そうだ。あの店は姉が営業している時間帯はそんなことは無いが……夜になると、少々……いや、極まれに治安が良くない場合がある。また変なのに絡まれたら厄介だろう? その為のアデリーナ嬢だ」
「え? まさか……アデリーナ様を私の用心棒にするつもりなの!?」
「いや、そこまでのことは言ってないだろう? ただ、あの人がいれば変な輩が絡んで来てもあしらってくれるはずだ。だからだよ」
「だけど、そんなことでアデリーナ様を誘いたくないわ。純粋に私はあの方と楽しい時間を過ごしたいのに……それに、私に声をかけるのは余程の物好きとしか思えないわ。きっとあの時の男だって、酔っぱらっていたんじゃないの?」
「全く、無自覚なんだな……」
ボソリと呟くマックス。
オリビエはあの夜、全く気付いていなかったのだが、店内に入った途端男性客たちから注目されていたのだ。
今迄家族や使用人、それに婚約者のギスランに相手にされてこなかったオリビエ。
自分の持つ美貌に気付いていない。
「とにかく、あまり夜の女性の一人歩きは良くない。なるべくアデリーナ嬢を連れてくるんだよ。いいか、分かったな?」
「分かったわよ。善処してみるわ」
するとマックスは笑顔になる。
「よし、それじゃ今夜待ってるからな。別に時間はいつでもいいぞ。俺の店は0時まで営業しているから。それじゃあな」
マックスはクシャクシャとオリビエの頭を撫でると、足早に去って行った。
「……もう! 髪が乱れたじゃない」
乱れた髪を直しながら教室へ入ると、早速エレナが駆けつけてきた。実は2人が廊下で会話している様子を、口を開けて見つめていたのだ。
「ちょっとちょっと! オリビエッ! 今の彼は誰なのよ!」
「あら、おはよう。エレナ、彼はマックスよ。見ての通り、同じ大学に通う男子学生」
「ふ~ん、マックスって言うのね。でも私の聞きたいところはそこじゃないわ。一体彼とはどんな関係なの? ギスランとはどうなったのよ」
「彼はね、夜はバーを経営しているの。その店はとても料理が美味しいのよ。ギスランとは婚約破棄をしたわ。全てアデリーナ様のお陰ね」
「はぁ!? ちょ、ちょっと何! その話は! 詳しく教えてよ!」
こうして、オリビエは問い詰めるエレナに今迄の経緯を詳しく説明することにした。
……1時限目の授業をサボってまで——
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