51話 婚約破棄宣言 1
「勝ったー! アデリーナ様の勝ちだ!」
「やった! 暴君が負けたぞ!」
「キャーッ! アデリーナ様ー!」
「愛していますっ!」
ディートリッヒが首を垂れた途端、拍手喝さいが沸き上がった。
歓喜に包まれる中、アデリーナはディートリッヒを見下ろす。
「ではディートリッヒ様。約束通り、私から婚約破棄させて頂きます。婚約破棄の理由はズバリ、貴方の不貞ということで国王陛下に報告させて頂きますから」
その言葉にディートリッヒは青ざめる。
「不貞だって!? 冗談じゃないっ! 婚約破棄は受け入れるが、理由を不貞にするのはやめてくれ! 頼む!」
ついにプライドを捨てたディートリッヒは地べたに頭を擦りつけた。
「今更何をおっしゃているのですか? 決闘に負けたのはディートリッヒ様ですよ? それに私という婚約者がありながら、サンドラさんという方と不貞を働いたではありませんか? 今はこの場にいないようですけど」
辺りを見渡すアデリーナ。
アデリーナは知らないが、サンドラはあまりにも事が大きくなり過ぎたことが怖くなり、逃げてしまったのだ。
「お、おいっ!? 不貞と言うな! 俺と彼女はお前が考えているような関係じゃないぞ! それにこんな大観衆の前で、妙な話をするんじゃない!」
「ディートリッヒ様がいくらサンドラさんと男女の関係は無かったと言っても、四六時中、彼女を傍に侍らせていたのは事実! ここにいる皆さんが証人です!」
アデリーナは見物している学生たちを見渡した。
「そうだ! 俺達が証人だ!」
「浮気なんて最低よ!」
「言い訳するなっ!」
「尻軽男め!」
学生たちの間から、ディートリッヒに関するヤジが飛び始める。もはや彼が侯爵家の者だろうが、お構いなしだ。
「くっ……! 周りを巻き込むなんて卑怯だぞ!! そ、それに剣術ができるなんて、俺は聞いていない! 騙しやがって!」
「別に騙してなどおりません。ディートリッヒ様が知らなかっただけではありませか。まぁ、それも無理ありませんよね? 貴方は少しも私に興味を持っていなかったのですから」
アデリーナの冷たい声はディートリッヒの背筋を寒くさせた。
「ア、アデリーナ……お、お前……一体……」
「そんなことより、まだ婚約破棄の理由にケチをつけるつもりですか? それとも私にとどめを刺されたいのでしょうか?」
握りしめていた剣の先を喉元に向ける。
「ひぃっ! お、お前……まさかっ!」
「どうなのです? 婚約破棄理由は貴方の不貞でよろしいのですよね?」
「そ、そうだ! いや、そうです! 俺の不貞で構いませんっ!」
「そうですか? ではそのようにさせて頂きます」
アデリーナがニコリと笑みを浮かべ、剣を鞘に納めた。
「うわぁああああっ!!」
ディートリッヒは悲鳴を上げながら走り去って行った途端、さらに観衆が湧いて一気にアデリーナに駆け寄ってきた。
「すごいです! アデリーナ様っ!」
「もう最高でした! 胸がスカッとしました!」
「悪女だなんて言ってすみませんでした!」
「アデリーナ様……」
学生たちに取り囲まれているアデリーナをオリビエは遠くから見つめていた。
「いいのか? 彼女の側に行かなくても」
マックスが尋ねてくる。
「ええ、いいの。だってもうアデリーナ様は悪女でなくなって、皆のアデリーナ様になったのだから。決闘も見届けた事だし、もう行くわ」
「え? 本当にいいのか?」
「いいの。それに私にもこれから片付けなければならないことが出来たから」
オリビエは踵を返すと、マックスの声が追いかけてきた。
「お、おい。片付けなければならないことってなんだよ」
「勿論……今度は私が婚約破棄する番よ」
オリビエは振り返る笑みを浮かべた――
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