50話 決闘の行方

 オリビエとマックスはアデリーナが決闘場所に指定した中庭へとやって来た。


「まぁ! すごい人ね!」


思わずオリビエは声を上げる。

既に中庭には驚くほどの学生たちが集まり、決闘が始まるのを待ち構えていたのだ。


「どうやらまだ決闘は始まっていないようだな」


「そうね。ディートリッヒ様もアデリーナ様の姿も見えないもの」


そのとき突然学生たちが騒ぎ始めた。


「あ! 来たぞ!」

「ディートリッヒ様だわ!」

「侯爵が現れたぞ!」


上着を脱ぎ、袖をまくった観衆の前にディートリッヒが現れた。彼の右手には剣が握りしめられている。


ディートリッヒは姿を見せるや否や、見物に訪れた学生たちに怒鳴りつけてきた。


「おまえたち! 何でここに集まっているんだよ! この決闘は見世物じゃないぞ! どっか行けっ!」


するとたちまち、学生たちから非難めいたざわめきが起こる。


「聞いた? 今の言い方」

「本当に乱暴な方だな」

「こんなに血の気が多いとは思わなかった」

「まさに暴君だ」


「おい! そこのお前! 誰が暴君だ! 聞こえたぞ!」


ディートリッヒは怒り叫び、声の聞こえた方角に剣を向けたその時。


「ディートリッヒ様! 貴方の相手は私ですよ!」


凛とした声が響き渡り、腰に剣を差したアデリーナが現れた。


赤い髪を後ろに一つにまとめたアデリーナ。

赤い丈の短いジャケットを着用し、白いボトムスにロングブーツ姿のアデリーナはまさに戦う女性騎士の姿そのものだ。


途端に学生たちから歓声が沸き上がる。


「キャーッ! 素敵!」

「なんて美しい姿なの!」

「応援してますよ!」

「コテンパンにやってください!」


もはやディートリッヒを応援する者は誰もいない。全員がアデリーナを応援している。


「それにしてもディートリッヒ様。まさかそんな姿で決闘に現れるとは思いませんでした。正直驚きましたわ」


アデリーナは腰に腕を当てて、ディートリッヒを見つめる。


「黙れ! お前の方こそなんだ? その姿は! 騎士の姿をすれば勝てると思っているなら大間違いだ! お前なんかなぁ、この姿で戦って十分なんだよ! どうせすぐに終わる戦いなんだからな!」


ディートリッヒは剣を鞘から引き抜き、切っ先をアデリーナに向ける。


「そうですか……私も随分舐められたものですね」


「当然だ! 女のくせに決闘なんか申し込みやがって! どうせ格好だけで、剣だってまともに握ったことも無いんだろう!? どうだ? 降参するなら今の内だぞ!」


「それは私の台詞です。降参するなら見逃してあげますよ」


「な、何だと……誰が降参するかよ! この俺を本気にさせやがって……怪我しても知らないからな! 一瞬で終わらせてやる」


剣を握りしめたディートリッヒはアデリーナめがけて突進すると、振り下ろした。


ガキイィィィンッ!!


「な、何っ!」


目を見開くディートリッヒ。

何といつの間にか剣を抜いていたアデリーナは片手で受け止めていたのだ。


「ば、馬鹿な! 片手で受けた!?」


するとアデリーナは不敵に笑う。


「これだけで驚くのですか?」


そしてそのまま上に大きく薙ぎ払った。


「うわっ!」


キィイイインッ!!


高い金属音が鳴り響き、ディートリッヒの剣が宙をくるくると舞った次の瞬間。


ザクッ!


剣がそのまま地面に突き刺さる。


「あ! お、俺の剣が! うわぁっ!」


ディートリッヒはいつの間にかアデリーナに剣を突き付けられていることに気付き、顔面蒼白になった。


「ディートリッヒ様。あなたは剣を落としました。この勝負……私の勝ちですね」


「あ……」


その言葉に、ガクッと頭を垂れるディートリッヒ。


勝負はディートリッヒの言葉通り、一瞬でついてしまったのだった――









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