46話 決闘の申し込み
「決闘だって!?」
「侯爵令嬢が決闘を申し出たわ!」
「これは大事件だ!」
集まる学生たちは、目の色を変えて大騒ぎを始めた。赤い髪を風になびかせ、学生たちの好奇の視線を浴びるアデリーナの姿はオリビエの心を震わせた。
(アデリーナ様……素敵! 素敵すぎるわ! あの凛々しいお姿……まさにこの世の奇跡だわ……)
アデリーナの姿に感銘を受けたのはオリビエだけではない。女子学生たちの見る目も変わってきていた。
「何だか……ちょっと素敵じゃない?」
「ええ、誰が悪女なんて言ったのかしら」
「私、好きになってしまいそう……」
余裕の態度のアデリーナに対し、ディートリッヒは青ざめていた。けれどそれは無理も無い話だろう。
決闘を申し込んできたのは女性、しかも婚約者なのだから。
「ア、アデリーナッ! お前、本気で俺に決闘を申し込んでいるのか!?」
「ええ、そうです。あなたのせいで私の大切な友人が手を怪我したのですから当然です!」
その言葉にオリビエは衝撃を受けた。
(え!? まさか決闘って……私の為だったの!?)
一方、面食らうのはディートリッヒ。
「何だって!? 俺は誰も怪我させたりなどしていないぞ! 言いがかりをつけるな!」
「確かに、直接手を下したわけではありませんが……ディートリッヒ様! 貴方のせいで彼女が怪我をしたのは確かです! それに手袋を拾った以上、決闘の申し込みを受けて頂きます!」
「くっ……」
大勢のギャラリーに見守られ、逃げ場がないディートリッヒ。
「そ、それじゃ……勝者にはどんな得があるんだ?」
「そうですね。もしディートリッヒ様が私に勝てば、どんな命令にも従いましょう」
「そうか。ならもし俺が勝ったら地べたに這いつくばって、サンドラに詫びを入れて貰おう」
「ディートリッヒ様……」
サンドラが頬を赤らめ、周囲のざわめきが大きくなる。
「おい、聞いたか? 謝れだってよ」
「そんな……侯爵令嬢が男爵令嬢に謝るなんて」
「これは屈辱だな」
「ええ、良いでしょう。地べたに這いつくばるなり、何なりとしてあげますわ。それどころか1日、サンドラさんのメイドになって差し上げてもよろしくてよ?」
「ほ、本当ですか? 本当に……私のメイドになってくれるのですね?」
サンドラが図々しくもアデリーナに尋ねてくる。
「ええ、ただし私が負けたらですけど?」
毅然と頷くアデリーナに、ディートリッヒは不敵に笑う。
「ほう……それはすごい自信だな。では次にお前が勝った場合の要求を聞こうか?」
「私が勝った場合……ディートリッヒ様! 私からあなたに婚約破棄を付きつけます!」
ビシッとアデリーナは指さした。
「何!? 本気で言ってるのか!?」
「何故驚くのですか!? ディートリッヒ様」
ディートリッヒとサンドラが同時に声を上げる。
「どういうことだ! お前から婚約破棄なんて!」
「ディートリッヒ様! アデリーナ様との婚約破棄が嫌なのですか!?」
「サンドラ……。そ、それは……」
サンドラに追及され、言葉に詰まるディートリッヒ。
するとアデリーナが肩をすくめる。
「全く……貴方はサンドラさんに何も説明していなかったのですね?」
「え……? どういうことですか? アデリーナ様」
サンドラがアデリーナを見つめる。
「私とディートリッヒ様は王命で婚約したので、双方の事情で婚約破棄が出来ないのですよ。ですが……特例があります。それはどちらか、または双方で不貞を働いた時です。どちらかが婚約破棄を告げ、陛下の承認を得られれば晴れて婚約破棄出来ると言う訳です。ですが、婚約破棄された側にはペナルティが与えられます。でも当然ですよね? 陛下の顔に泥を塗るようなものですから」
「……ほ、本当ですか? ディートリッヒ様……アデリーナ様と婚約破棄して私と婚約してくれるって言ってくれましたよね? あれは嘘だったのですか?」
「……」
しかし、ディートリッヒは答えない。
「答えられるはずありませんよね? たいていの貴族は政略結婚を余儀なくされ、本命を愛人として傍に置くだけなのですから。どうせ王命には逆らえないのですからね」
「え!? そ、それじゃ私と婚約してくれるという話はどうなったのですか! ディートリッヒ様!」
縋り付くサンドラを無視し、ディートリッヒはアデリーナに怒鳴りつけた。
「分かった! 決闘でも何でも受けてやる! その代わり、お前が負けたら俺たちに恥を欠かせたことを詫び、一生俺に逆うんじゃない! いいな!」
「ええ、いいですよ? それでは決闘方法は何にしましょうか? 私から申し込んだので、選ばせて差し上げますよ?」
アデリーナは口元に笑みを浮かべた——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます