「ふぅ……今日は充実していたけど、何だかとても疲れた1日だったわ。こんな時はアレね」

入浴を終えて、自室に戻って来たオリビエは事前にトレーシーが用意してくれていたワインをグラスに注いで香りを楽しむ。

「フフ、いい香り」

カウチソファに座り、アデリーナが勧めてくれた恋愛小説を手に取った時。

—―ガチャッ！

乱暴に扉が開かれ、義母のゾフィーがズカズカと部屋の中に入ってくるなり怒鳴りつけてきた。

「オリビエッ！　一体今まで何処へ行っていたの！　私は何度もこの部屋に足を運んだのよ？　手間をかけさせるんじゃないわよ！」

いきなり入って来たかと思えば、耳を疑うような話にオリビエは目を見開いた。

「は？　ノックもせずに部屋に入って来たかと思えば、一体何を言い出すのですか？　まさか人の留守中に勝手に部屋に出入りしていたのですか？」

「ええ、そうよ！　これでも私はお前の母なのよ！　もっとも血の繋がりは無いけどね。娘の部屋に勝手に入って何が悪いのよ」

ゾフィーは文句を言うと、向かい側の席にドスンと腰を下ろした。

「血の繋がりが無いのだから、私たちは他人です。大体、今まで一度たりとも私を娘扱いしたことなど無かったではありませんか！」

「おだまり！　オリビエのくせに！　戸籍上は親子なのだから、私はお前の母親なのよ！　その親に対して口答えするのではない！」

「はぁ？　今朝、散々シャロンに罵声を浴びせられていましたよね？　そのセリフ、私にではなく、むしろシャロンに言うべきではありませんか？」

「シャロンは部屋に鍵をかけて、閉じこもってしまったのよ！　取りつく島も無いのよ！　今はそんな話をしに来たわけじゃないわ。オリビエッ！　お前、一体私たちに何をしたの！　何の恨みがあって、家庭を崩壊させたのよ！」

あまりにも八つ当たり的な発言に、オリビエは怒りを通り越して呆れてしまった。

「一体先程から何を言ってらっしゃるのですか？　意味が分かりません。大体元からいつ壊れてもおかしくない家族関係だったのではありませんか？　そうでなければ簡単に崩壊したりしませんから。念の為、言っておきますが私には全く関係ない話です」

「関係ないはずないでしょう！？　さっきも父親と2人きりで楽しそうに食事をしていたでしょう？　一体何の話をしていたの！　言いなさい！」

ビシッとゾフィーは指さしてきた。

「あぁ……成程。つまり私とお父様が手を組んで、何かするのではないかと恐れているのですね？」

「……」

図星なのか、ゾフィーは口を閉ざす。

「何を勘違いしているのか分かりませんが、私は少しも今夜の食事を楽しいとは思えませんでした。むしろ、早く解放して欲しいと思っていたくらいです。そこだけは、はっきり伝えておきます」

「嘘をおっしゃい！　どう見ても2人は楽しそうだったわ。それでどんな話をしていたの！　どうせ私とシャロンを追い出す話でもしていたのでしょう！？」

「まさか、でもそんな話が出ているのですか？」

「し、知らないわよ！　何でお前に一々そんなことを言わなければならないの！　早く何を話していたのか言いなさい！」

何処までも喧嘩腰の態度に、オリビエはいい加減うんざりしてきた。

（もう相手にするのも馬鹿らしいわ……適当にあしらって出て行って貰いましょう。でも、ただ適当にあしらうだけでは駄目ね。今まで私は散々酷い目に遭わされてきたのだから）

そこでオリビエはワインをグイッと飲み干した――

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