33話 暴露、そして……

 1時限目の教室に行ってみると、既に親友エレナの姿があった。


「おはよう、エレナ」


「あら、おはよう。オリビエ」


近付き、声をかけるとエレナも笑顔を向ける。


「ねぇ、今朝は雨が酷かったけど大丈夫だったの? 自転車は当然無理だろうから、辻馬車に乗ったのかしら?」


隣りの席に座ると、早速エレナは心配そうに話しかけてきた。オリビエがあまり家の馬車を使うことが出来ない事情を彼女は知っているからだ。


「ええ、大丈夫よ。何と言っても、今日は馬車を出して貰ったから」


「え!? そうだったの? 以前は雨でも馬車を頼めないから辻馬車を利用しているって話していたじゃない。一体どういう風の吹きまわしなの?」


「それはね……」


オリビエは教室に掛けてある時計を見た。授業開始までは後10分程残っている。


「どうしたの? オリビエ。時計を気にしているようだけど?」


「あまり時間が無いから、かいつまんで説明するわね……」


こうしてオリビエはエレナにも今迄黙っていた家庭の事情を暴露したのだった。

何しろ彼女はもう恥さらしなフォード家を見限ったからだ。大学を卒業後は、奨学金制度を利用して大学院に進学する。その申請書も本日持参してきているのだ。


当然、エレナがオリビエの話に目を見開いたのは……言うまでも無かった――



****



 あっと言う間に時間は流れ、昼休みの時間になった。


オリビエはエレナと連れ立って大学に併設されたカフェテリアに来ていた。この店は学生食堂の次に大きな店で、大勢の学生達で賑わっている。


2人でランチプレートを注文し、空いている席を見つけて向かい合わせに座る早速エレナが話しかけてきた。


「今朝の話は驚いたわ。1冊丸々本に出来そうな濃い話じゃない」


「確かにエレナの言うとおりね。あんな人達に今迄私は媚を売っていたのかと思うと我ながらイヤになるわ」


「そうよね。オリビエには申し訳ないけれど、あなたの家族は酷すぎるわよ」


食事をしながら、女子2人の会話は増々盛り上がってくる。


「でも、オリビエ。20年間今までずっと我慢してきたのに、何故突然考えが変わったの?」


「それはね、アデリーナ様の……」


オリビエがアデリーナの名前を口にしたその時。


「彼女に謝れ! アデリーナッ!」


一際大きな声がカフェテリア内に響き渡り、その場にいた全員が声の方向を振り向い

た。


「え!? な、何!?」

「今、アデリーナ様の名前が出たわよね!?」


当然の如く、エレナとオリビエも声の聞こえた方角に視線を移すと……。


窓際のテーブル席に着席している男女と対峙する様に、アデリーナが立って2人を見おろしている姿があった。

その男女とは……言うまでも無くアデリーナの婚約者と恋仲のサンドラだった。


「アデリーナ様!」


オリビエが席を立とうとした時。


「待って! オリビエ、一体何処へ行くつもりなの!?」


エレナが慌てた様子で腕を掴んで引き留めた。


「だって、アデリーナ様が……!」


「落ち着きなさいよ! オリビエ、あなた忘れたの? ディートリッヒ様は侯爵家の方なのよ? それに毎年多額の寄付金をこの大学に収めていて、理事にだって口を挟める状況なのよ? あなたがあの場に行って、どうこうなると思っているの?」


「だけど……!」


「奨学金を貰って大学院に行きたいんじゃなかったの? 逆らってその話が駄目になったらどうするのよ?」


「そ、それは……」


言葉に詰まったそのとき。


「何故私が謝らなければならいないのかしら? ディートリッヒ様」


アデリーナの凛とした声がカフェテリアに響き渡った——

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