11話 苛立つ義母
オリビエは自分の部屋に戻ると机に向かい、カバンから書類を取り出した。
この書類はアデリーナから教えてもらった物で、大学院進学届の申請書だった。優秀な学生は無償で大学に進学することができ、さらに寮に入れば生活の面倒も見てくれるという素晴らしい内容が記されている。
アデリーナと別れた後、学務課に寄って貰ってきたのだ。
「父も兄も、女の高学歴を良く思っていないわ。当然大学院の進学なんて反対するに決まっている。大体卒業後はギスランと結婚させて進学もさせないつもりなのだから」
……いや、そもそもギスランは自分と結婚する気があるのだろうか? 異母妹のシャロンと親密な仲である状況で……。
そんな事を考えながら、オリビエは書類の記入を始めた――
****
一方その頃……。
「聞いて下さい、あなた!」
ゾフィーはノックもせずに乱暴に扉を開けると、夫――ランドルフの書斎にズカズカと入ってきた。
その非常識な振る舞いにランドルフは眉をひそめる。
「何だ、ゾフィー。随分と騒がしくしおって。見ての通り、仕事の書類がたまっていて今忙しいのだ。話なら後にしてくれ」
「いいえ! 聞いていただきます。オリビエが私に歯向かったのですよ! 生意気にもあのオリビエが私に挨拶もせずに無視したたのですよ!」
悔しさをにじませながら机を叩くゾフィー。
「だが、お前の方こそ今までオリビエを無視してきただろう? いつもお前に声をかけても無視されるから、オリビエも挨拶するのを諦めたのだろう。別にいいではないか。あんな娘など、気にする価値もない」
あまりにも呆気ないランドルフの態度にゾフィーは苛立ちを募らせた。
「何を言っているのです! それだけではありません! 何故、挨拶をしなかったのか問い詰めたら謝るどころか、生意気にも私に言い換えしてきたのですよ!」
「何? オリビエがお前に言い返してきたのか? 確かにそれは由々しき事態だな……」
「ええ。だから今すぐオリビエの部屋に行って、あなたから、お説教を……」
「イヤ、それは無理だな」
「……は? あなた。何をおっしゃってるの?」
「だから、今は忙しいのだと言ったばかりだろう? お前にはこの書類の山が見えないのか?」
「ですが、こういうことは早めに説教するべきです! また憎たらしい態度をとられる前に!」
「いいかげんにしろ! ここ最近目の回るような忙しさなんだ! 説教なら食事時にするからとにかく今は仕事に集中させろ!」
ついに我慢できず、ランドルフは声を荒げた。
「ま、まぁ……! なんて冷たい人なんでしょう!」
ゾフィーは顔を怒りで顔を真赤にさせると、乱暴に扉を開けて書斎を出て行った。
「全く……騒々しい。まぁ、食事時にビシッと怒れば良いだろう。たかがオリビエ1人に振り回されるとは情けない」
ランドルフは書類に目を通し、仕事を再開した。
けれどその日の夕食の席に、オリビエが姿を見せることはなかったのである――
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