第三章 変えられない運命と仮面夫婦

第16話 直血貴族と王族直属十二騎士

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 昨夜決闘でボンボニ・エールの死体を片付けた赤毛の粛清仮面騎士をリゼッタは知っているようだった。

「あの赤毛は間違いなく王族直血貴族のレオパルド卿でしょうね」

「レオパルド卿?」

「アリアの夫です」

 そういえばボンボニ・エール卿がこちらに来ると言う手紙を鳥に付け教えてくれたのは彼女の義妹であるアリアだった。

 確かその手紙の中で俺たち夫婦を見てえらく感動していたと言っていた気がする。

「妹さんの嫁ぎ先か……」

「えぇ……私はレオパルド卿の所にアリアを嫁がせる為に色々な事をしましたから……」

 リゼッタは社交界で手を回しレオパルド卿とアリアが会えるように仕向けたと言う。

 もちろんライバルは沢山いた為にどうやってレオパルド卿を振り向かせようかと思案したらしい。

「でも結局はレオパルド卿の一目惚れでした」

 まだ俺はアリアに会った事はない。

 しかし王族直血貴族のライバルの多い殿方を射止めたのだ。

 きっとリゼッタのように美しいのだろう。

「まぁ……リゼッタには敵わないだろうけどな?」

「なんの話ですか?」

「こっちの話だ気にしないでくれ」

 リゼッタは首を傾げながらもまんざらではない顔をしている。

 やっぱりリゼッタは可愛いなと思いつつ昨夜の決闘の立会人がレオパルド卿であることを振り返った。

「にしても…まさか兄夫婦と決闘する人間の立会人をするとは中々肝が据わっているな?」

「関係性の構築でしょう…もし私たちが殺されたとしてもボンボニ・エール卿との関係性は作れます…王族直属十二騎士団の一角ですから絶大な影響力を持つはずです」

 王族直属十二騎士団は隣国との戦争あるいは魔族との大きな対戦の際に力を発揮する騎士たちの事を言う。

「十二騎士団は神魔大戦と呼ばれる魔族と人間の戦争において多大な戦果を残した騎士たちの末裔です彼らの剣術は王国の重要兵器とも言われています」

 彼らが投入されれば戦況はひっくり返り瞬く間に勝ち戦になると言われている。

 まぁ…機会があるなら一度は手合わせしてみたいものだ。

「むしろ私はリオベル様が十二騎士団のボンボニ・エール卿を倒せたことに驚いているんですよ?」

「まぁ…不意打ちの外道戦法だけどな?」

 しかしリゼッタの言う通りなら俺がボンボニ・エール卿を殺した事でこの国の国力は少しばかり削ってしまったことにもなる。

 果たして変えはあるのだろうか?

 ボンボニ・エール卿の情報をよこしてくれた腹違いの弟のダリルは剣術の才能がないからボンボニ・エール卿に追放された。

 俺も同意見だし実質的に『処刑人の剣』は失われたことになると言う事なのだろうかなんてことも考えたが直ぐにどうでもよくなってしまう。

「そんな奴を殺したのか…きっと今頃は権力争いの真っただ中って訳だ」

 ボンボニ・エール卿のいなくなった権力の空白地帯にはきっと他の誰かが入ることになる。

 その誰かは権力を金儲けか更に自身の権力を高めるための橋頭保にするのか想像するときりがない。

「関係ありません…喧嘩を売ったのはあちらですから…」

「確かにその通りだ」

「ご歓談中に申し訳ございません…一つよろしいでしょうか?」

 珍しく執事のハイゼンが会話の中に割って入る。

「どうした?」

「ちょうど赤獅子の侯爵ともいわれるレオパルド卿の名前が出た所ですこれを御渡しした方がよろしいかと思いまして……」

 彼が差し出したのは青い蝋印が押された真っ赤な封筒だった。

 差出人は先の決闘で立会人をしリゼッタとの会話にも出てきたレオパルド卿である。

「なんでもリオベルさま以外は見れないように魔法を施しているそうです」

「えぇ……これは本物ですね?」

 リゼッタは丹念にレオパルド卿がよこした手紙を丹念に確認すると本物であると判断しスッと手紙を差し出し俺は手紙を受け取った。

「読んでみればわかるだろう?」

 レオパルド卿のよこした手紙の封を開け中身を確認する。

 そんなこっちの様子を見て執事のハイゼンとメイドのクロエは手紙の中身を覗き見しようとするとリゼッタは二人を止めた。

「リオベルさま以外が中身を見ると見た人間は燃えますよ?」

 リゼッタは魔法使いである。

 最初に彼女は手紙を丹念に確認していた。

 もちろん魔法や呪いの類も確認済みである。

「なるほど…」

 レオパルド卿の手紙には簡潔な一文が書いてある。

 その一文を読むとすぐさま手紙を破ると同時に大きな火柱を上げ燃えてしまった。

「すまないな読み終わったら破ってくれと書いてあったんだ」

「手紙の内容は?」

「もちろん言えるわけないだろう?」

 執事のハイゼンとメイドのクロエは珍しく不安気は表情を浮かべる。

「まぁ大丈夫だ物騒な事は書いていない」

 笑いながら二人に向かって言うが彼らはまだ安心していないようだった。

 同時に俺は生まれ変わる前に女神様に読まされた本の内容を思い返す。

「どうかしたんですか?」

「いいや…何でもない」

 生まれ変わる前の俺は悪役貴族としてレオパルド卿の様な赤毛の主人公に国王の御前試合で倒され飛竜に食われることになる。

 その御前試合の前に赤毛の主人公から手紙を送られていたのだ。

「女神の悪戯かねぇ……」 

 女神様に手渡された本の内容を思い出しながら思わず俺は呟く。

 そして安穏とした日々が続いたのちに国王陛下直々の家臣らが我が邸宅を訪れ俺は国王の前でレオパルド卿と国王直属十二騎士を決める御前試合を行う事となったのである。


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