第二章 元盲目座頭剣士と氷結女神

第9話 動き出す運命と粛清騎士(リゼッタ・ルリエスタ視点)

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 ルマニ・エールの一件から数日が経過した頃に義妹のアリア・レヴァンテから手紙が来た。

“拝啓リゼッタお姉様へーーーいかがお過ごしでしょうか?”

 手紙の文字を見ただけでアリアが喜んでいる事がわかる。

 ルマニ・エール卿の一件はもう王都にまで届いているのかと思うと本当に彼女には迷惑を掛けたと思った。

“先の一件でお姉様の名誉を取り戻せた事は大変に喜ばしく近くで見ていた赤獅子公レオパルド様も見込みのある青年を見つけたとおっしゃっていました”

 あの場に赤獅子公がいたのかとアリアの手紙を読んで驚く。

 赤獅子公レオパルド・レヴァンテは国王直血貴族のうちの一つであり次期王家直属十二騎士の次期筆頭候補である。

 そして義妹のアリアの嫁ぎ先であり彼女の縁談話を取りまとめるまでに苦労した。

“さてお姉様には幾つかお耳に入れたい事がございます……先ずは十二騎士のボンボニエール卿が御子息を呼びつけた後に御子息様が行方知らずになったとの事です” 

 まぁ……仕方がないと言えば仕方がない自ら沢山の貴族を集め私を晒し者にしようとしたルマニ・エール卿が自らの過ちを認め独白したのだ。

 実家に呼ばれ殺されるのは貴族社会では日常的な事である。

“次にそのボンボニエール卿が公務参加を全て取りやめ旅支度をしているそうで妻のハビ・エール卿夫人を連れ小旅行に出るとのこと……そちらに着くのは早くて二日後になると思います”

 やはり出発したかと予想が的中した。

 ボンボニ・エール卿が向かうのは此処でありリオベル・ウルフィンを殺しに来るのだろう。

 自分の可愛い息子を殺したのだ報復しなくては一族の歴史に恥を残す事になる。

“どうか赤獅子公含め夫のリオベル様の御武運を願っております………追伸侍女のクロエから旦那様の印象は大変良いと聞いています何時か王都に来た際は紹介して頂けると嬉しいです”

 侍女のクロエは義妹に何を送りつけているのだろうと不安になりながら溜息を吐くと唐突にそれは響いた。

「リゼッタ支度は出来たかー?」

「はっはい!!」

 声の主は夫のリオベル・ウルフィンである。

 今日は屋敷の周囲に結界を張る為に馬に乗り敷地の周りを周回する事になっていた。

「何かあったか?」

「いいえ……何もありませんそれよりも行きますよ!!」

 部屋の外から声が響き私はアリアから届いた手紙をドレッサーの引き出しにしまうと慌てて彼の元に向かって走って行く。

「乗馬服似合ってるよ」

「ありがとうございます」

「同じ馬に乗れない事が残念でならないね」

「置いて行きますよ?」

 私はリオベル様が用意してくれた乗馬服を着用し馬に乗り邸宅の周囲を走り決まった場所に結界を張る為の魔法陣を黙々と設置して行く。

「にしても助かる……屋敷の周囲に結界を張れれば敵の襲撃にも備えられるからね」

「使用人の安全を守る事も主人の務めですから……」

 もうすぐここに来て一ヶ月が経過してようやく同じ空間にいても緊張しなくなった。

 まだまだ彼の事を直視する事は出来ない。

「これで最後です」

 ある程度の魔法陣の設置が終わり邸宅の裏庭でほっと胸を撫で下ろすとリオベル様の声が響く。

「なぁ……リゼッタ」

「はい!?」

 背後で響くリオベル様の言葉に驚き振き見あげると其処にはさみしげな表情をするリオベル様がいた。

「俺の事が嫌いか?」

「あの…その……」

「こっちを見てくれ」

 めちゃくちゃカッコいい、

 男臭い感じがたまらない、

 服の上から見える筋肉が色っぽい、

 このままだと今晩もまた悶々としてしまう。

「この様な場ではしたないですよ?」

「そっちが釣れないからだろう?」

 私が拒んでもリオベル様は迫りくる。

 そんな彼を止め高鳴る鼓動を整え私はリオベル様に言った。

「リオベル様は私の汚名を晴らして下さいました……それにこの家に来てから侍女のクロエ共々ここ数年の中で考えられないほどの穏やかな日々を過ごしています」

 そう言うとリオベル様の胸の中に飛び込み私の本心を言う。

「まだ気恥ずかしいしそれに戸惑っているのです……こんなにも幸せで良いのかと……」

「まだ好きかどうか聞いていないけど?」

「私……リゼッタ・ルリエスタはリオベル様をお慕いしております」

 真っ赤になっているであろう顔を見られたくなくて彼の胸筋に顔を埋め言う。

 するとリオベル様は私を突き放し眼前に顔を近づける。

「じゃあ……敬語禁止な?」

「えぇ!?」

「俺のこと好きなんだろ?」

 なんでいちいちカッコいい事を言うんだコイツはと思いながら私は彼の問いかけに答えた。

「えぇ……好きよリオベル」

「俺もだリゼッタ!!」

 すると彼は私を軽々と持ち上げられるとリオベル様はクルクルと回り始める。

 そうして私たちは屋敷への帰路に付く事になったがリオベル様と一緒の馬に乗り私を包み込む様に手綱を握る。

「私……馬に乗れますけど?」

「一緒に乗りたいんだよ!!」

 たまにリオベル様は子供ぽい様な所がある。

 でも其処がまた可愛いなと惚気てしまう。

「この件が終わったら本当に穏やかな日々が送れると思う」

 急に真剣な声色でリオベル様は語りかける。

 そんな彼に対して私は心配している事を言った。

「勝てるのですか……相手は国王直血貴族の護衛十二騎士の一人しかも粛清騎士ですよ?」

「勝つさそのために十年間毎日剣術の修練に明け暮れたんだから……それに……」

 私は振り向きリオベル様の方を見る。

 すると彼は満面の笑みを浮かべていた。

「まだリゼッタと一緒に過ごしたいしね!!」

 私は心の中で泣きそうになる。

 今とても満たされている。

 今とても幸せだ……だからこそこの幸せを守りたいと心からそう思った。

「君がいるから勝ちたいと思えるんだ……だからボンボニ・エールを倒すそしたら一つ願いを聞いてくれないかな?」

「なんですか?」

「世継ぎを産んでくれないかな?」

「ッツ!?」

「まぁ……世継ぎを産むと言うよりはそう理由を着けて……」

「言わなくても大丈夫です!!」

 全くやっぱりリオベル様も男性なんだと思うと何処かほっとした。

 すると何故かクスリと笑ってしまう。

「リオベルは端ないのね」

「リゼッタの前だからだよ」

「他の女の前でもこれでは困ります!!」

 強い口調でリオベル様に向かって私は言う。

 それから少し身体を縮こめて問いかけに対して返答した。

「別に…ボンボニ・エールを倒さなくても……今日の夜からでも抱きたいのなら抱かれたいです」

「俺……性欲凄いけど大丈夫かな?」

「望む所ですよ?」

 フフッと笑いリオベル様の言葉に反論する。

 すると彼は馬を走らせ足早に邸宅に向かって私を連れて行った。


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