第8話 宴の終わりと名誉挽回

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 ルマリ・エール卿主催の宴の場で俺は奴が今までやってきた悪行の数々を無理矢理に認めさせた。

 そうして妻のリゼッタの濡れ衣を晴らし今は馬車に乗って帰路についている。

「一体……何をなされたんですか?」

「なにとは?」

「ルマリ・エール卿に決闘を申し込んた時のアレです」

 ルマリ・エール卿に決闘を申し込んだ後に彼は床に落ちたナイフを拾い決闘を受けようとした。

 途端彼は動揺し平伏すと自分の行ってきた悪行の全てを認めたのである。

「斬身を見せただけた」

「斬身?」

「異国の剣術を極めし者が使う剣を構えただけで相手を制圧する幻術に近い剣術だ」

 ルマリ・エールの悪行を証明する証拠はない。

 父親のボンボニ・エール卿によって揉み消されたからだ。

 故にルマリ・エールの悪行を証明するには自らやったと認めさせるほかなかったのである。

「ルマリ・エールは床に落ちたナイフを拾うまでの間に少なくとも俺に三〇〇〇回は斬り殺された幻を体感したんじゃないかな」

「三〇〇〇回?」

「何千回も斬り殺された相手が目の前にいるんだ気がおかしくなるのも仕方がないだろう」

 ルマリ・エール卿が自らの悪行を認めさせた方法の種明かしをするとリゼッタの表情は変わらなかったが驚いている様だっだ。

「あのばら撒かれたビラは?」

「元から王都でばら撒く様に準備していた」

「王都で!?」

 更にリゼッタは驚き声を上げる。

 それはそうだ王都でそんな事をすれば貴族同士の争いが起こるからだ。

「そうだビラを撒く事でルマリ・エールの悪行を明らかにしある男を誘き出そうとした」

「まさか……」

「国王直属護衛十二騎士の一人で仮面の粛清騎士ボンボニ・エール卿だ」

 王族直血貴族にして凄まじい権力と剣術の才を持つ六人の貴族と六人の仮面騎士合わせて十二騎士の一角それがボンボニ・エール卿だった。

「そんな事を最悪一族全員根絶やしよ?」

「覚悟の上だ俺は両親の無念を晴らす」

「何があったのか聞かせてくれない?」

「両親は俺が五歳の誕生日を迎えた日の夜に飢饉による責任を取らされ粛清騎士に殺された」

 リゼッタの耳にも入っているだろう。

 十年前に両親が治めていた領地で大きな飢饉が発生した。

 飢饉では何人かの餓死者をだした事の責任を取り両親は粛清騎士に首を跳ね飛ばされたのである。

「おかしいのは別に災害が起こっていないのに麦の収量が減った事と疫病が流行り家畜が大量に死んだ事……その原因を調べる為に幼い俺とハイゼンは農民達に頭を下げ話を聞いた」

 貴族が頭を下げると言う行為は普通ではない。

 だからか農民達は何が起こったのか話をしてくれた。

「わかったのは両親が粛清された年だけ畑を荒らす害虫が大量に発生し発生した害虫が家畜の疫病を媒介したって事だ」

「どうして?」

「両親は農耕を手助けする為に毎年ギルドから複数の魔法使いを雇って防虫と結界の強化をしてもらっている……その魔法使いの話によれば害虫には対魔法耐性が施されていたと言うんだ」

 対魔法耐性は魔法の効かない魔法であり自然界で生きている虫にそんな耐性が着く事はない。

「そんな対魔法耐性なんて私たち魔法使いは毎年そうならないように魔法耐性を更新しているはずです」

「そうもし対魔法耐性を虫に付与するなら魔法使いが故意に付与する以外に可能性はない」

 つまりは何者かが飢饉を故意に発生させる為に虫に対魔法耐性を付与させたと言う事だ。

「俺はハイゼンと共に近隣領地の様々ギルドに網を張り同様の自体が発生した時には情報を提供して貰うように秘密裏に依頼を出した結果……依頼を出した関係者は立て続けに殺された」

「えっ?」

「関係者を殺した暗殺者を突き止め依頼者が何者か更に調べた結果……わかったのはルマリ・エール卿の存在だった」

 ルマリ・エール卿は裏で沢山の悪行を行い悪行の中に『特定の商人や冒険者の暗殺』があった。

「同時に繋がったのは『魔法』と言う単語だった……ルマリ・エールの母親のハビ・エール卿夫人をご存知かな?」

「もちろん……ボンボニ・エール卿の奥様で……確か元々は銀等級の魔法使い……まさか……」

 銀等級の魔法使いは冒険者ギルドの中でもかなりの手練れであり『虫』に対魔法耐性を付与する魔法使いであると言う可能性があったのである。

「俺とハイゼンが『虫』周りを嗅ぎ回っていたからか近隣の領地での飢饉の報告は上がらなくなった……つい最近まではな?」

「私の領地では冬の食料保存庫で害虫が発生してそれが原因で大規模な飢饉が発生しました」

「そう当時は珍しく大雪で俺たちは現地に行く事が出来ず助けようにも金銭を融通する余裕はなかった……でも俺たちの事を覚えていた冒険者が発生した害虫の捕まえ標本にし調べた」

 懐から標本にした虫を出し目の前に座るリゼッタに手渡しマジマジとリゼッタは標本になった虫を見る。

 リゼッタほどの魔法使いならある程度の事が分かるはずだ。

「君の領地で発生した虫には様々な性質が付与された『耐寒性』と『魔法探知』そして『探知した場合の自死性』……多分魔法使いを探知した後は死ぬ様にしたんだろう」

 魔法が付与された生物が死ぬと付与された魔法も消失する。

 リゼッタに魔法を付与した虫が現れた事を探知されない様にしたのだろう。

「確かに微かな魔法の痕跡があります」

「ボンボニ・エールは言う事を聞かない貴族や目的の支障になる貴族を殺す為にハビ・エール卿夫人の魔法を使って飢饉を起こし粛清理由を作り出すと粛清騎士の夫であるボンボニ・エールが標的の貴族を殺す……まぁそう言うやり方だろう」

 馬車の窓から外を見つつ先の大広間での出来事に関して話を始めた。

「さっきのビラは執事のハイゼンが調べる過程でわかった事をまとめたものだ……大広間でビラを撒いたのもハイゼンだよ」

 きっとハイゼンはビラを撒く姿を想像しさぞ苦労しただろうと笑っていると凛としたリゼッタの声が響く。

「これからどうするの?」

「どうもこうもあとは待つだけさ……必ず奴らは動く息子に生き恥を晒させた俺を殺す為にな?」

 貴族は礼節と建前それに世間体を重んじる。

 粛清対象になるような悪行をしていたと認めた息子を許す訳はないし息子に生き恥を晒させた俺も許しはしない。

 きっと俺を自らの手で殺しに来るはずである。


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