俺は被召喚世界のエリートである。
ニンゾウ
エリートは帰還する
「フンッッッッッ!!!!」
雷のような踏み込みから放たれた左フックは複数展開された結界をいとも容易く破壊し、大魔王ゼロスのボディに刺さった。
大魔王ゼロスはたまらず苦悶の表情で膝をつく、チャンスだ。
「死ィッッッッッ!!!!」
渾身の右ストレートがゼロスの顔面を破壊。大魔王ゼロスは倒れ2,3度痙攣してその後再び動き出すことは無かった。
「ミッションコンプリート」
後方に控えていた俺の契約主を含む勇者パーティーにそう告げる。パーティーの内訳は勇者マティアス、聖女セリア、術師バーミリオ、斥候ルルディオの四人だ。
「そ、そうだな。大魔王ゼロスの討伐、確かに確認した」
確認したといいながら今だ信じ切れていないような表情で契約者である召喚術師バーミリオが返答してきた。
さて問題はここからだ…。
「それならば契約通り、帰還したいのだが?」
「まあまあ、トーマス様そんなに急ぐことは無いではありませんか。せっかく大魔王ゼロスを倒せたのですもの、ご帰還は王都に戻ってお祝いの宴を開いてからにいたしませんか?」
聖女セリアが笑顔でそう言ってくる。純心な彼女には悪いが、このまま王都に戻れたとしても恐らくそういう展開にはならない。なぜなら大魔王を倒した俺を誰よりも憎々しげに睨みつけている男、勇者マティアスがいるからだ。
マティアスは戦闘開始早々にゼロスの攻撃をくらい先ほどまで気絶しており、正直何の役にも立たなかった。
だがプライドだけは高いこの男はなんとか自分の功績にしようと企んでいるに違いないのだ。俺としてはこの世界での功績なんてどうでもよいのでごたごたする前にさっさと帰還したいのである。
「セリス、この男が帰還を望んでいるのだ希望を叶えてあげてはどうだろうか?」
「でも…」
「マティアス殿。セリス様の言葉にも一理ありますぞ、トーマス殿の希望は理解いたしましたが、王都へ戻り報告を済ませてから帰還というのが筋というものでしょう」
「バーミリオ様、ありがとうございます」
いつもなら勇者様に媚びへつらっているバーミリオからも反論され、驚いたマティアスは不満げながらも頷いた。
これはまずいな…おそらく帰還の魔法をバーミリオは用意していない。捨て駒のつもりだったが想定以上に俺が強く大魔王を瞬殺したもんだから予定が狂ったのだろう。王都へ戻る途中で暗殺を狙っているな。
まあいい、契約完了の確認と言質はとったのだ、帰還方法がどうであれ魔力は還元される。
その夜、勇者パーティーは聖女セリスを除く全員が謎の失踪を遂げた。
被召喚世界マテアストにまた大きな魔力がもたらされた。
トーマスが帰還したのだ、人々は喜びの声を上げた。
俺はトーマス、被召喚世界マテアストにおけるエリートである。
被召喚世界マテアストは異世界から召喚されミッションを達成して帰還した時に魔力が補充される仕組みとなっており、その魔力は生活にかかせない重要な資源となっている。
そんな訳で召喚されミッションを達成して帰還した回数が多い者ほど称えられる世界なのだ。
俺の実績は召喚数100回を超えており、ミッション達成率は90%以上である。未達成分は召喚側が悪質な術式を組んでいたり、契約の不履行があったりと向こうの世界が原因なので実質は100%達成であり、マテアストに対しての貢献度歴代ナンバー1。
数多の異世界ミッションを熟し、必ず帰ってくる俺をいつしか人はこう呼ぶようになった。
『帰還者』トーマスと。
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