アーロイースは二人いる
みはしいおり
序章
1.来世に期待
「では、こちらの書類に必要事項をご記入いただけますか。筆記具はそちらのブースにあります。
書き終わりましたらまた番号札を取って、座ってお待ちください」
渡された紙を持ってブースに行く。そこは投票所みたいに一人分ずつパーテーションがされていて、俺以外にも何人かいるようだった。
待ってる時から視界に入ってはいたが、俺の前に案内されたであろう人たちが、みんなあーだこーだと唸りながら同じようにペンを走らせている。
俺もその中に混じって記載台に用紙を置き、ペンを取った。
ええと、氏名……生年月日……年齢……性別……住所……電話番号……マイナンバー? えぇ、カード持ってたか? ……ああ、あったあった。よかった。
そうして順調に用紙を埋めていくと、変な項目が目に入った。
「希望する世界傾向……?」
突飛すぎてつい声が漏れてしまったが、よく見れば途中から選択式になっていて、他にも『希望する種族』だの『希望する能力』だのなんて項目もある。
受付の人の話では輪廻転生に関する希望調査ということだったが、ひょっとして転生するのは地球以外の可能性もあるのか。
死んだ衝撃からかはわからないが、最初の方はちょっとボーッとしていて話しを聞き流していたので、もしかしたらその時にそこらへんの説明もしてくれていたのかもしれない。
ともかく、また地球で人間として生きる以外の選択肢があるなら、文字通りまったく違う環境で次の人生を歩むのもいいだろう。
魔法のあり/なしにスキルのあり/なし、ステータス表示のあり/なしに人間以外の人類種のあり/なし、ほか様々な項目を片っ端からありに丸を付けていく。
転生先は人間以外を希望して、能力の欄には『多重影分身の術』と書いた。最期は忙しすぎて仕事と寝に帰るだけの生活で遊ぶこともままならず、何度も「自分が一人じゃなければ」と思ったからだ。望めるというのなら、来世はやりたいことを我慢したくない。
そうして書き上がったら一度記入漏れがないかを確認して、ブースを出て番号札を取り、ロビーチェアにかけて呼ばれるのを待った。
「はい、では問題ないようですので、このまま2階に進んでいただいて、空いている部屋でお待ちください。また係の者が案内に伺います」
「わかりました。ありがとうございました」
俺は席を立ち、階段に足を向けた。
2階は1階の役所のような造りとは一変して、ホテルのような雰囲気だった。ドアがズラッと並んでおり、空室はドアが開放されているようだ。
手近な部屋を見てみるとやはり窓のないビジネスホテルといった風情で、ベッドと机と椅子があるだけの簡素な内装だった。完全なワンルームのようで、洗面所に繋がる扉はなかった。代謝もないから必要ないということだろう。
ドアを閉めて靴を脱ぎ、ベッドの上に座ると意図せずため息が出た。思いもよらなかったことを経験して、知らずに疲れていたのかもしれない。
そのままベッドに倒れ込んだ。
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