第5話 対話

頭の中でいつも考えてしまう。幸せなんて一時のものにどうして囚われてしまうのか、こんなモノ全て無駄じゃないか。思い通りにならない日々に、怒りを感じてしまう。

そんなある日、人とぶつかってしまった。人間関係はどうしても難しい。

心を落ち着かせるために、旅に出ることにした。遥か向こうに見えるあの山を超えた先の景色が見たい、そう思った。

「お前は何を考えている?生きていても幸せにはなれないさ。全てお前のせいだろう?」

頭の中の声が邪魔をしてくる。

ただ、ひたすらに歩みを続ける。

日が傾いてゆく、サンダルを履いた足は、切れて赤くなってきた。痛みを感じなくなるくらいに歩みを続けた。

「こんなことして何になるんだ、時間の無駄でしか無いだろう。」

暗闇の中、コンビニの灯りが見えてきた。

半額になった300円の弁当を買った。

山を超えた先で、展望台が見えてきた。暗闇で何も見えやしないが、誰もいない、落ち着く空間である。

しばらく歩いたところ、棒のようになった足に気づいた。近くの高架橋の下で限界を迎えた。どれほどの時間がたっただろうか、いくつもの人が、車が過ぎ去っていくのを眺めつつ、無情にも流れる時に身を寄せた。

「︿θενΘυςζινφΝΠΠφΑ﹀︿︿﹀﹀︿」

形にならない声は聞こえなくなっていた。

明るんだ空を見ながら、明日の日を浴びた。

夜は苦手だった。今日が終わり、やがて過去になる。そして、明日と謂う未来がやってくるからだ。過去や未来と繋がる時間はどうしても不安定になってしまう。

あったかもしれない未来も、報われなかった過去も、大事なものだ。でも、ボクの生はそれらに矯正されるものではない。そいつらが存在するのは勝手だが、そいつらを無視するのも自分の勝手だろう。そんなことを想いながら声を聞いた。

「お前はなんなんだ」

「ナニかなんて愚問だろう?

  君は本当はとうにわかっていたはずさ」

「ふふ、そうだな。勘違いも甚だしいものだったよ。ボクはボクだけで十分さ、キミは必要なかったよ。」

過去と未来、在らざる化物たちは嗤いながら、あたかも初めから全てを知っていたかのように、全てを見通しているかのように、只ひたすらにボクを見つめていた。

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