お化けは嫌い。

@mimitaburanko

お化けは嫌い。

 今日、お化けに出会った。


 性別は女で、年齢は20後半ぐらいに見える。真っ黒のワンピースを着ていて、足元は暗くてよくは見えなかったが、肩にかかる髪は黒金剛石のような艶があり美しく、大学生の俺には大人の女性という印象だった。

 彼女は簡単に言うと、生きていたときに結婚しようと思っていた彼氏の浮気が原因で自殺し、お化けになったらしい。死ぬことが彼への一番の復讐だと思ったみたいだ。

 そんな彼女のお化けビギナーのテンプレ自己紹介を聞きながら、俺は腹を立てていた。だから、彼女が話し終える前に言ってやった。

「お前みたいな話下手なやつが、誰かと関わりを持ちさらには恋人がいた。俺はその関わりすらない。恋人いました自慢か?」と。

 彼女は戸惑っていた。



 俺は友達がいたことがない。というよりも、いた記憶がないといった方が正しいかもしれない。幼稚園ぐらいのときは友達がいたかもしれないがそんなのは覚えていない。小学生の頃から本を読むのが嫌いではなく、人と関わることをしてこなかった。関わりたくなかった訳ではない。むしろ、関わりたかった。そのために色んな種類の本を読んだ。恋愛からミステリー、コメディー、歴史など。それに勉強も得意だった。定期試験では毎回学年10位以内で、大学もそこそこの所に通っている。部活動にこそ所属していなかったが、高校2年からアルバイトをしていて学生にしては貯金もある方だと思う。身長も176cmと低くない。自分で言うのも何だが、容姿も中の上ぐらいはある。知識とお金、容姿が人並み以上なのに友達が彼女が、関わりがない。

 そりゃ、お化けに強く当たってしまいたくもなる。


「どうした?何もないならもう行くわ。」

「すみません!」

 彼女は深々と頭を下げ謝った。お化けが頭を下げるなんて聞いたことがない。もちろん見たこともない。呆気に取られていると彼女は申し訳なさそうに言った。

「恋愛経験豊富そうで、こういう人を呪ったりするのが今の私の使命なのかと思って。本当にすみませんでした!」

 少し嫌味のある言い方だなとは思ったが、頭を下げる彼女を見ていると自然と怒る気もなくなった。

「頭を上げてください。俺も言い過ぎたところあるから。じゃあまた。」



 次の日の夜。

 昨日と同じく、街灯に照らされている彼女がいた。特に話すこともなかったが何となく挨拶だけしておいた。すると彼女は、暇だったのか俺を上機嫌で話しかけてきた。趣味や最近の流行、元カレの愚痴など他愛無いことを話した。相性が良かったのか3時間立ったまま話し続けていた。

「じゃあ、また。」


 その後、ほとんど毎日同じ場所で彼女と話すのが日課になっていた。話す内容こそほぼ同じだが彼女といること自体が楽しかった。この関係がずっと続けば良いのにとも思っていた。今まで真面に人と話したことがなかった俺がこんなに誰かを心の拠り所にするなんて。ましてや、お化け相手に。


 ある日、彼女がお化けになったらずっと一緒にいれるのにと言った。そのときは笑って済ましたが、よく考えるとそれも悪くないなと思った。この世に未練もないし、大そうな夢も目標もない。それならいっそ彼女といた方が楽しいのではないかと考える。もし、そうするなら死ななければならないだろう。ならば一応、両親宛てに遺書ぐらい書いた方が良いかとなんの違和感もなくそう思った。紙を置き、ペンを取る。



遺書

父さん、母さんへ

 初めて書く手紙が遺書になるとは思ってもいませんでした。

 多分、二人の思い通りには育たなかったと思います。友達がいて、運動ができて、学生生活を楽しんでいて、やりたいことを見つけて将来安泰の息子にはなりませんでした。

 でも、この年になって色んな当たり前のことのありがたさに気付きました。毎日、父さんが働いてくれていること。毎日、母さんがご飯を作ってくれること。大人になればそれが当たり前にできるのだと思っていました。けど、そんなことはない。夢も目標もお金も彼女も友達も家族も勝手にできない。自分の努力次第だと思います。

 だけど、あの世では友達が1人はできそうです。だから、心配しないでください。あっちでは楽しくやります。

 今まで育ててくれてありがとう。

                                 息子より



 遺書を書き終え、親孝行とかまだやっていないことがあると気付いた。

「まぁ死ぬのは、もう少し後でいいかー。」

 ペンを置き、紙をゴミ箱へ捨てた。


 次の日の夜。

 いつもの場所に行くと街灯の明かりは地面を照らしていた。

 空を見上げると雲から月が少し顔を出していた。




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