2-2
テーブルに並べられた様々な焼き菓子を真剣に吟味していたお嬢様がその一つに手を伸ばそうとした時、「コンコン」とノックが鳴った。
伸ばしかけた手を引っ込めて、お嬢さまが視線で俺に合図をする。
扉をかけると、執事のスティーブさんが困った顔で立っていた。
「お嬢様は?」
「いらっしゃますよ。」
彼の質問にそう答えて、入室を促したけど、執事殿はさらに困った顔をして動かなかった。
「私の糖分補給を邪魔するほどに重要な用事なんだろうな?スティーブ?」
お嬢様の質問にスティーブさんはさらにさらに困った顔でやっと部屋に入ってきた。
「実は、第一王子殿下がいらっしゃいまして…お嬢様との面会をご希望とのことでございます。はい。」
先代の執事から代替わりしたばかりで執事としては新米のスティーブさんは、代々ブラックモア侯爵家に仕えている家柄で俺よりずっとお嬢様との付き合いが長い。
けど、子どもとは思えない威圧感のある、この変なお嬢様のことが未だに苦手ならしい。「お嬢様は機嫌を損ねるとほんとにもう、威圧が!すごいんだ。」とよく言っている。
「訪問の理由は?」
お嬢様は彼の方をちらりとも見ずに、ついにお目当てのストロベリーのジャムタルトに手をつけて、ゆっくりとそれを口にした。
結局、食べるんかい。
「それが…昨日のお茶会のご挨拶をしたいとのことです。今は旦那様が対応していらっしゃいまして…」
スティーブさんの言葉に返さずに、お嬢様はもぐもぐとジャムタルトを咀嚼している。
「旦那様は必ずいらっしゃるようにと。」
スティーブさんがさらに言葉を続けた。
お嬢様は相変わらずスティーブさんの方を見ずに、ティーカップを手にしてお茶を飲んだ。
気まずい沈黙。実際数秒のことだけど、ものすごく長く感じる。
コクリという音が聞こえた気がした。
「面倒だが、変に誤解される方が後々面倒だな。」
そうつぶやくとお嬢様はカップをおいて立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます