少年性愛者

雨村小夜

第1話 青い瞳の少年


金色の髪が風に揺れる

青い瞳と目が合った

ギョッとして我に返るついまじまじと

見てしまっていた。

おそらくは小学校からの帰り道

紺色の制服に身を包み

この公園の前を通る少年の姿を

一目見たくて、用もないのに

コンビニでアイスを買って公園で食べる

もはや日課になってしまった


「そろそろ本当に通報されるかも...」

自分の行いが正常でないことはわかっていた

しかし、この日課のやめ方を

私は忘れてしまっていた


始まりは偶然だった

両親の訃報で戻った故郷には

1人では広すぎる家と多少の遺産だけが残された

家を売る事も考えたが両親との思い出を知る

数少ない物を無くすのが惜しくなってしまった


慌ただしい葬式を終え、1人公園に佇んでいた

楽しげな笑い声が聞こえてなんとはなしに

目を向けると学友と笑う少年の姿があった


黒に染められた式の後では

少年の青い瞳は一層綺麗に見えて

簡単に心を奪われてしまった



「あれ、こない、?」

ふと呟いてしまったいつもの時間になっても

少年が姿を現さない

「もしかして本当に不審者として通報されてたり...」

可能性ならば十分だった

多少の違和感を覚えつつも

アイスを食べ終わってしまっては

夏の暑さが残る中

これ以上ここに居る理由はない


しぶしぶと帰り支度をして道に出る

細い路地が多く夕方になると見通しも悪い


後ろ髪を引かれる思いでだらだらと歩いていると

道の角から勢いよく現れたそれにぶつかり

数歩よろける一瞬だが確かに見えた金色の髪


あの少年が目の前にいた、


「え、?だっだっ、大丈夫!?」

少年は私にぶつかった勢いで

尻もちをついていた

「ごっ、ごめん」

しどろもどろになりながら

必死に語りかけるも少年は唖然としたまま

動かなかった


そして、途端にポロポロと涙を流していた

「え、えっ!?ま!?本当にごめんなさい!」


少年は顔を横に振る、訳のわからないまま

少年を見つめているしかなかった


「ショウ!探したぞ!!」

声のする場所、少年の走ってきた方向から

中年の男がどしどしと走ってきた

「ショウ!ほら帰るぞ!」

荒々しく言い放つと男は少年の腕を掴み引き寄せる

加減をしていないのか

少年の顔が一瞬、痛みにゆがむ

「え?」

状況を飲み込めずにいると男は私に向き直り話す

「すみません、コイツが言うこと聞かなくて」

困ったようにニヤけると

馴れ馴れしく少年の腕をゆする

遠目に様子を見ていた通行人は

微笑ましそうに見ているが

少年が痛みに耐える顔は

目の前にいる私にしか見えていないようだった

「じゃあ俺たち帰るんで」

そう言い放ち踵を返しそうとしたその時


少年の手が私の服の裾を掴む

控えめながらも確かな力で握りしめていた

(どうすれば...この男性は保護者じゃないのか?)

一瞬の思考が行動を鈍らせた

「何してんだ!早く行くぞ!!」

男の怒号が響き少年の腕を強く引く

この状態を諦めたように少年の手から力が抜ける


(このまま、行かせたらダメだ!)

考えるが早いか身体が動いていた

「あ、の!!」

声をあげながら少年を抱き抱えるように

前へ出る、恰幅のいい男相手に力で勝てるとは

思えなかった声も身体も震えながら

少年の腕を掴む手を掴んだ

「この子、怖がってる、ので止めましょう?」

機転の効かない頭にイラつきながらも

少年に危害を加えさせまいと体を引き寄せる

「なんだてめぇ、こっちは親だぞ!?」

怒鳴りつける男に自分の行いが正しいのか

心が揺らいだ

しかし、抱き抱えた少年は今なお私の服を

しっかりと握りしめていたそれだけは確かだった

「じゃあ!警察!行きましょう!

ちゃんと親子なら、証明できるでしょう?」

警察の言葉に男の顔がゆがむ周囲には

様子を伺う者もあり

男は迂闊なことは出来なかった

「くそっ!!」

私の手を振りほどき走り去る男を

数人の見物人が追いかけていった


私はというと気が抜けてその場にへたり混んでいた

少年は言葉もなくずっと私の腕の中にあった

ふと我に返り距離を置こうとしたが

少年に掴まれたままの服がそうさせてくれなかった


しばらくすると誰が呼んだのか

パトカーの音が近ずいてきた


気の抜けないまま調書を取られ

解放された頃には日は沈んでいた


「はあ、とんでもない1日だった...」

やっとの思いで息をつき家路にもどる

明日からはまた空っぽの日常に戻っていく

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