少年性愛者

雨村小夜

第1話 青い瞳の少年

金色の髪が風に揺れる青い瞳と目が合う

ギョッとして我に返るついまじまじと

見惚れてしまっていた。

学校からの帰り道、紺色の制服に身を包み

この公園の前を通る少年の姿を一目見たくて

用もないのにコンビニでアイスを買って

この公園で食べる

もはや日課になってしまった


「そろそろ通報されても文句言えないな...」

自分の行いが正常でないことはわかっていた

しかし、この日課のやめ方を

私は忘れてしまっていた


始まりは偶然だった

両親の訃報で3年ぶりに戻った故郷には

1人では広すぎる家と多少の遺産だけが残された

家を売る事も考えたが両親との思い出を知る

数少ない物を無くすのが惜しくなってしまった


両親を亡くしたという事実は

どこか現実味がなく

慌ただしい葬式を終えると

心は空になったように空虚だった


「お姉さん、何してるの?」


顔を上げると少年の姿があった

灰色に見えた景色にその青い瞳は

あまりに鮮やかに見えて

簡単にも心を奪われてしまった


「あれ、こない…?」

ふと呟いていた

いつもの時間になっても

少年が姿を現さない

「もしかして本当に通報されてたり...」

可能性ならば十分あったが

多少の違和感を覚えつつも

アイスを食べ終わってしまっては

8月の暑さが照る中

これ以上ここに居る理由はない


しぶしぶと帰り支度をして道路に出る

公園周りの住宅街は夕方になると見通しが悪い


後ろ髪を引かれる思いで

だらだらと歩いていると

道の角から勢いよく現れたそれにぶつかり

数歩よろける一瞬だが確かに見えた金色の髪


あの少年が目の前にいた…


「え…?だっ、大丈夫!?」

少年は私にぶつかった勢いで

尻もちをついていた

「ごっ、ごめんね?」

しどろもどろになりながら必死に語りかけるも

少年は唖然としたまま動かない


そして、途端にポロポロと涙を流していた

「えっ!?ま!?本当にごめんなさい!」


少年は頭を横に振る

訳のわからないまま少年を見つめる


「しょう!探したぞ!!」

声のする場所、少年の走ってきた方向から

中年の男がどしどしと走ってきた

「おい!ほら帰るぞ!」

荒々しく言い放つと

男は少年の腕を掴み引き寄せる

加減をしていないのか少年の顔が痛みにゆがむ

「え?」

状況を飲み込めずにいると

男は私に向き直り話す

「すみません、息子が言うこと聞かなくて」

困ったようにニヤけると

馴れ馴れしく少年の肩を寄せる

遠目に様子を見ていた通行人は

微笑ましそうに見ているが

少年が痛みに耐える顔は

目の前にいる私にしか見えていないようだった

「じゃあ俺たち帰るんで」

そう言い放ち踵を返しそうとしたその時


少年の手が私の服の裾を掴む

控えめながらも確かな力で…

(どうすれば?この男性は保護者じゃない?)

一瞬の思考が行動を鈍らせた

「何してんだ!早くいくぞ!!」

男の怒号が響き少年の腕を強く引く

諦めたように少年の手から力が抜ける


(このまま、行かせたらダメだ!)

考えるが早いか身体が動いていた

「あ、あの!!」

声をあげながら少年を抱き抱えるように

前へ出る、恰幅のいい男相手に力で勝てるとは

思えなかった声も身体も震えながら

少年を掴む手を掴んだ

「この子、怖がってる…ので、

止めましょう?」

機転の効かない頭にイラつきながらも

少年に危害を加えさせまいと少年の体を寄せる

「なんだてめぇ、こっちは親だぞ!?」

怒鳴りつける男に自分の行いが正しいのか

心が揺らいだ

しかし、抱き抱えた少年は今なお私の服を

しっかりと握りしめていて

それだけは確かだった

「じゃあ!警察!行きましょう?

ちゃんと親子なら、証明できるでしょう?」

警察という言葉に男の顔がゆがむ

先程まで微笑ましそうに見ていた

周囲の人間の目が懐疑的になる

「くそっ!!」

私の手を振りほどき走り去る男を

数人の見物人が追いかけていく


私はというと気が抜けて

その場にへたり混んでいた

少年は言葉もなく私の腕の中にあった

ふと我に返り距離を置こうとするも

少年に掴まれたままの服が

そうさせてはくれなかった


しばらくすると誰かが呼んだのか

パトカーの音が近づいてきた


気の抜けないまま調書を取られ

解放された頃には日は沈んでいた


「とんでもない1日だった...」

やっとの思いで息をつき帰路にもどる

明日からはまた空っぽの日常に戻っていく

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